《MUMEI》
作戦実行
重そうな音を響かせながら、壁はゆっくり左右に動いていく。
彼とタツヤは緊張した面持ちで頷きあった。
振り向くとすぐ近くにレイカも来ていた。
彼女もまた、いつになく緊張した表情でタツヤに頷いた。

壁が開くと、黒のセダンが走って来た。
タツヤが右手を振って合図する。
彼とレイカは頷くと車が停車する位置の近くまで怪しまれないよう移動した。
それを確認してタツヤも動く。

何も知らない車は彼を連れて来たときと同じように、ある程度まで来ると車を止めた。
彼とレイカは姿勢を低くして近づく。
後部座席のドアが開き、一人の若い男がゆっくり降りてきた。
それと同時に、車はドアを閉め、勢いよく走り出した。
彼は慌てて車の後を追う。
しかし、車はどんどんスピードを上げていく。
(ダメだ!追いつけない!!)
そう思った瞬間、グワッシャ!!っと派手な音を立てて車は急停車した。
見ると、車の前にタツヤが立ちはだかり、フロントにナイフを投げつけたところだった。
どれだけの馬鹿力で投げたのか、フロントは一点を中心に円を描くように大きくヒビが入っていた。
タツヤは彼と目が合うと、無言で頷いた。
彼は、急いで後部座席のドアを開ける。
「貴様!」
中からあの銀行員を装ったスーツ姿の男が怒鳴りながら銃を取り出した。
(やっぱ持ってたか)
あらかじめ予想していたからか、さして驚くこともなく、彼は素早く中へ入り込み、そのままの勢いで男を反対のドアへ押し付けた。
「今度はテメエが残れ!」
彼は片手でドアを開け、男を思い切り殴りつけて、外へ放り出した。
妙な落ち方をした男は後頭部を強打したらしく、ピクピクと痙攣をして動かなくなった。
「行くぞ!」
振り向くと、運転席にタツヤが乗っている。
助手席には血に濡れたナイフを片手にレイカが座っている。
彼は頷いてドアを閉めた。

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