《MUMEI》
脱出
「タツヤ!」
前を見ていたレイカが叫んだ。
壁がゆっくり閉まりかけている。
「やべえ!時間が!」
タツヤはアクセルを力一杯踏み込んで、車を発進させた。
走り出すとき、窓の外に今連れて来られた若い男が見えた。
両手に小さな箱を持ったまま、目を飛び出さんばかりに見開いている。
車は、閉まりかけた壁に向かってスピードを上げながら突っ込む。
バリッ!ズガガガガ!と壁を擦りながらも止まる訳にはいかない。
タツヤはアクセルを底まで踏み込む。
車は激しいエンジン音と破壊音を響かせる。
車内に焦げ臭い空気が充満していくのがわかる。
彼は目を閉じて前の座席に必死にしがみついた。
ほんの数秒が、彼にとってはとても長く感じられた。
ふっと衝撃が感じられなくなり、彼は目を開けた。
フロントガラスは砕けたのかきれいに無くなっている。
その先に広がるのは開けた外の風景。
「いよっしゃあ!!」
タツヤが片手を天井に突き上げ吠えた。
彼はなんとなく後ろを振り向いた。
遠ざかるあの高くそびえ立った壁の中から、あの若い男の叫び声が聞こえた気がした。
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