《MUMEI》
見知らぬ場所
「それで?出れたのはいいけど、ここどこだよ?」
彼は過ぎ行く景色を眺めながら聞いた。
連れて来られた時は、窓から外が見えないようになっていた。
町からどのくらい時間がかかったのかも、もう覚えていない。
「さあ。俺が知るわけないじゃん」
タツヤは壁が見えなくなってからも、かなりのスピードで走り続けている。
一度もブレーキを踏んでいないのは一本道で信号もないからだろう。
「海の近くだね」
レイカが言う。
確かに今、車が走っているのは海沿いの道。
しかし、周りに民家はおろか、建物どころか人の気配すらない。
「んなことわかってるよ!俺が聞いたのはどこらへんの海なのかってことだよ」
「だったら最初からそう聞けばいいのに」
レイカに冷たくあしらわれ、彼は憮然とした表情で彼女を睨んだ。
その時、外からバラバラバラというプロペラ音が聞こえてきた。
「やっぱ、簡単に逃がしてくれるわけないよな」
タツヤはガラスのなくなったフロントへ少し身を乗り出し、上を見た。
車の真上には、あのヘリコプターがぴったりくっついて飛んでいた。

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