《MUMEI》
追っ手
「はいはーい。そこの脱走者のみなさーん。困っちゃうんですよねぇ、そういうことされちゃうと。おとなしく車を止めてくださーい。でないとぉ、…撃っちゃいますよ?」
あの女の声がスピーカーから聞こえてくる。
語尾を可愛く上げている辺りが、三人の神経を逆なでする。
「出たな場違い女。あの声、いつ聞いてもムカつくな」
タツヤはさらにスピードを上げた。
「そんなことより、撃ってくるって!どうするよ?」
彼は助手席と運転席の間から身を乗り出した。
「あと十秒待ちまーす。…いーち…にー」
「あ!!カウント始めやがった」
「ナイフでも投げてみれば?」
「届くわけねーだろ!!」
「冗談でしょ」
(こんな状況で、お前はどんな神経してんだよ)
彼は突っ込みたい気持ちを辛うじて抑えた。
今はそんなことを言ってる場合ではない。
「…ろーく…しーち…」
カウントは容赦なく続く。
「やばいぞ!どうする?」
彼が言うと、タツヤはフッと鼻で笑った。
「逃げるしかないだろ。任せろ!昔、パトカー相手に鍛えた俺の腕を見せてやるぜ」
そう言って、タツヤはハンドルを左右に回しながら超スピードのまま、蛇行運転を始めた。
ガン!と鈍い音が後部座席に響く。
「あんたは一体何してたんだ!」
突然の蛇行に振られ、窓で頭を打ち付けながら彼は思わず叫んだ。
「…きゅーう…じゅう…。うーん、停車する気配が見られないので、撃っちゃいますねー?」

声はプツっと途絶え、代わりにズダダダダダダ!!と、映画でよく聞く機関銃のような音が聞こえてきた。

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