《MUMEI》
フェロモン
大学へ通い出した由自はかなりモテ始めた。しかも2年に無事進級できたオレと、1年の由自とじゃあ講義の時間とかバイトとかで(オレだけ)すれちがいの生活が始まってしまった。



不安だ。

あの無類の女好きで、こういう関係になる前は遊びまくっていた男だ。不安にならない方がおかしい。




「あ、俊。おかえり」

「ただいま」

「バイトお疲れ。明日もバイトか?」

「明日は休み。勉強見て欲しいのか?」

「ううん。Hしたいなぁと思って」



……‥これ、アパートの玄関口で男同士がする話じゃないぞ。



でも。


「………うん」

「やった」


本当に嬉しそうな顔。不安になるオレはバカなのかなぁ。


「由自……かなり女の子にモテてるじゃん。嬉しい?」

「モテてるのは嬉しいんだけど…‥誰ひとりとして対象にならないんだよな」

「対象?」

「Hの。つまり、恋愛の対象にならないってことだ」

なんか照れる。由自が言わんとしていることがわかって嬉しくなった。

「オレも俊と同じ大学に通い出して、お前のモテっぷりには驚いたよ」

「オレ?」

「うん」

「なんでオレがモテてるんだよ。オレだって理工学部だぜ?」

「お前も、他の学部からモテてんの。いい加減自覚しろっつーの」

「自覚って‥‥…本当に女の子とか近付いて来ないし」

「それはお前に話しかけるチャンスが一切無いからだよ。いつも勉強してるか、バイトでさっさと帰るだろ?」

「……………」

「それに、お前オレと付き合い出してからそういうフェロモンが出てるみたいでさ、女だけじゃなくて男もお前のこと見てるぜ」

「はぁ!?なんだよフェロモンとか意味わかんねぇ」

「お前とかネコのヤツには一生わかんねぇよ」

自分が男にモテてるなんて信じたくない。

「ゆ、由自だけでいい」

「当然だろ」

まるで当たり前のように言い放つ由自。その自信過剰ぶりは腹立つけど、実際否定できない自分がいる。でもそれくらいの強引さが丁度良くて心地いい。




――そういうところも好きなんだ。


口に出しては言えないけど、なんとなく伝わっていればいいな。

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