《MUMEI》

「なあ、どうなったんだよ?」
一人、状況が見えないタツヤはじれったそうにバックミラー越しに彼を見た。
「なんか、どっか行ったみたい」
彼が呟く。
「ああ?」
「煙上げて逃げてったよ」
レイカは力が抜けたのかズルズルと座席にもたれた。
「マジで!?」
タツヤはアクセルから足を浮かせ、勢いよく後ろを振り返った。
反動で車は大きく右へ逸れる。
『おい!!』
彼とレイカの声がハモる。
「おっと。あぶねえ」
タツヤは慌ててブレーキを踏み込んだ。
甲高い音を響かせて車は横滑りしながら停まった。
あと一歩で海へダイブするところだ。

「勘弁してくれよ。せっかくヘリから逃げても、海に落ちたら意味ねぇって」
彼はぐったりと後部座席に横になった。
「悪かったって。けどマジで俺ら助かったわけ?」
「まだわからない。すぐ次のが来るかも」
レイカは頬の血を手で拭いながら言った。
「あ、大丈夫か?怪我」
タツヤはレイカを覗き込んだ。
「平気。とにかく早くここから離れたほうがいい」
「…だな。よし、行くか」
タツヤは一旦車をバックさせて道路に戻し、発進させた。
「でもさ、あんだけのスピードでけっこう走ったのに何にも見えてこないよな」
仰向けに体勢を変えて、彼は窓の外を見上げた。
もう辺りは薄暗く、空にはたくさんの星が瞬いている。
「そうでもないぜ?見ろよ」
言ってタツヤは前を指差した。
その先には、まるでこの場所を隠すかのように大きく山がそびえ立っていた。

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