《MUMEI》
トンネル
「俺のカンによると、あの山の向こうに町がある」
なぜか自信満々にタツヤが言った。
「ここは、あの山を境に隔離されてるみたいだね」
レイカは静かに山を見つめている。
「なんでもいいけど、早く家に帰ってゆっくり寝たい」
彼は大きなため息を吐いて一人呟いた。

車は順調に走り続け、やがて山のすぐ傍まで近づいた。
近づくと夜の暗さも手伝って不気味な雰囲気を醸し出している。
さらに不気味さを際立たせているのがポッカリ開いた暗いトンネル。
中にライトは一切点いていない。
吸い込まれそうな闇が三人を待ち構えている。

「うわー。なんか不気味」
無意識にスピードを落としながらタツヤは言った。
「でも他に道ないし…」
彼も先の見えないトンネルを不安げに見つめる。
トンネルに入る手前で、車は静かに停車した。
「けど、ここを抜ければ帰れる。はずだ」
明るい声で自分に言い聞かすようにタツヤが言う。
それに続いて彼も頷いた。
「そうそう。パッと抜けて早く帰ろうぜ!」
彼とタツヤは二人で何度も頷いた。
「いいから、早く行けば?」
レイカは相変わらずの無表情。

「――お前な、こういう場面では普通、女のほうが怖がるもんだろ?」
呆れたようにタツヤは言った。
彼も同意する。
「あんたたちが騒ぎ過ぎなんだよ。ただのトンネルに」
冷たい物言いにタツヤと彼は顔を見合わせ、肩を竦めた。
車はゆっくり発進し、暗いトンネルへライトを照らしながら入って行った。

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