《MUMEI》
評価
「棗、帰ってくるなら連絡なさいよ。」

相変わらず、母さんが床でごろ寝していた。


「なんかホームシックになっちゃって。」


「なふめ……。」

歯磨きしている茉理と対面する。
光ちゃんに会ってから約三日振りである。
今日は休日、プチ単身赴任中の父さんが帰ってくる日なのだ。

視線が合うだけで何となく互いに気付いてしまう私達。
やっぱり血の繋がったキョウダイなのよね。


私も茉理も気付いている。
光ちゃんは知らない。
父さんは私達を公園に連れて来てくれて、サッカーをしたりフリスビーを飛ばしたり、学芸会のときには最前列でカメラを回してくれた。
一緒に運動会の綱引きに参加もしてくれた。
肩車をしてくれた父さんを、優しい父さんを光ちゃんは知らない。


「ただいま……おお、棗帰って来たのか。」


「お帰りなさい、父さん。」

私も、茉理もすっかり父さんは私達だけの父さんだと信じていた。
私が違うと気付いたのは茉理よりずっとずっと早かった。


「ただいま。」

父さんは白髪混じりの髪を整えてスーツで帰ってくる。
我が家ではそれがいつものこと。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫