《MUMEI》

ここは産婦人科。
「加藤るりさん、1番の診察室にお入りください」
29歳。一児の母の加藤るりは、診察室のドアを開けて中に入った。
「よろしくお願いします」
「はい、どうぞ」
彼女はイスにすわった。若い主婦にとって恥ずかしい治療が待っていた。彼女は緊張の面持ちで年配の医師を見つめた。
「あの、向こうで洗浄って言われたんですけど」
「聞いていますよ」
カルテはすべてパソコン入力だ。デスクに向かい、パソコンを慣れた手つきで打つと、見冬院長は、るりを見た。
「膣内洗浄は初めてですか?」
「初めてです」
早くも顔が紅潮している。見冬院長はすました顔で言った。
「当クリニックはほかの病院とポリシーが違うんですよ」
「ポリシー?」
「私は女性スタッフや患者さんとも話したんですがね。だれに聞いても膣内洗浄は恥ずかしいと言うんですよ」
「恥ずかしいですね」
美人だ。スリムでセクシー。見冬は話を続けた。
「いくら相手が医者だからって、下半身全部脱いで、両足開いて足首固定されて、男性医師に見られてしまう。これは拷問ですよ」
「はあ…」
るりは俯いた。これから自分もそうされると思うと、恥ずかしくて身が縮む思いだ。
しかし見冬院長はデスクに小型の機械を置いた。
「そこで研究・開発されたのが、この洗浄マシーンです」
「洗浄マシーン?」
「これを下半身にはめまして、自動洗浄するんです。つまり、医師に直接あそこを見られたり、いじられたりしなくても済むわけです」
るりは顔が明るくなった。
「あ、だからさっき、別室で検査を」
「そうです。膣内検査はすべて女医がやります」
るりはすっかり安心し、見冬院長を信頼した。
「では、下着姿になってください」
「はい」
裸にされるのは覚悟していたので、彼女はテキパキと服を脱いだ。院長は一度も服を脱ぐところを見ない。ずっとパソコンを見ていた。
るりはますます信用した。
「では、そこのベッドに仰向けに寝てください」
「はい」
看護師はいないのだろうか。一瞬そう思ったが、るりはブラとショーツだけの格好で仰向けに寝た。さすがに緊張する。
見冬院長は下半身に洗浄マシーンを乗せた。
「この状態で下着を取ってください」
「はい」
るりは顔を赤く染めてショーツを脱いだ。恥ずかしい。でも機械が隠しているから、直接見られることはない。
院長はしっかり装着すると、ファッション誌を数冊持ってきた。
「20分です。退屈だろうから、これでも読んでいてください」
「ありがとうございます」
るりは寝そべると、本を開いた。
「何か、美容院みたいですね」
「寝ててもいいですよ」
リラックスしたるりは、笑顔を見せた。知的で聡明な印象がある。見冬はスイッチを入れた。
いきなり人間の指のようなものが、膣内を洗浄する。るりは唇を結んだ。
「何かあったら言ってください。絶対にマシーンをいじらないでくださいね」
強烈な刺激。ファッション誌を読む余裕はない。
「結構くすぐったいですね」真顔で聞いた。
「最初だけです。すぐに慣れます」
「はあ…」
るりはそれを信じて仰向けになった。しかし何分過ぎても慣れない。
また上体を起こすと、院長を見た。
「すいません」
「どうしました?」
「機械を止めてくれますか?」
「なぜです?」
院長はとぼけたような声と顔。るりは落ち着かないそぶりで言った。
「いいから止めてください」
「何ですかその態度は?」
るりは慌てた。この刺激には耐えられない。
「あの、気分が悪くなっちゃったんです」
「気分が悪くなった?」
見冬は彼女の目を片方ずつゆっくり見た。さらに。
「熱は?」
額に手を当てる。今すぐ止めてほしいのに、のらりくらりだ。
「早く止めてください」
「気分が悪いようには見えませんけど」
るりは本気で焦っていた。恥だけは絶対にかきたくなかった。

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