《MUMEI》
無計画
「……?」
「なんもいねぇ、な」
一瞬の沈黙のあと、タツヤが小声でポツリと言った。
無言で頷くレイカと彼。
「諦めたんじゃ?」
彼は自然と笑顔になる。
「だといいけどな」
まだ不安そうな表情でタツヤは辺りを警戒している。
しかし、しばらく走っても一向に追っ手が来る気配はない。
代わりに遠く町の光が見えてきた。
「ほら!やっぱ、諦めたんだって」
心から嬉しそうな笑顔を浮かべ、彼はタツヤとレイカの肩をポンっと叩く。
レイカは素早くその手を払いのけた。
「さっきも言ったけど、町にも奴らの仲間がいる」
「じゃあ、どうすんだよ?一生逃げ続けんのか?無理だろ!!」
苛立った口調で彼はレイカを睨んだ。
「あれだけ派手に追ってきといて、すぐ諦めるわけない。逃げるのが嫌なら自分でどうするか考えたら?
ま、油断して死ぬのは勝手だけど…」
「なんだと?」
「まあまあ、落ち着きなって」
険悪な雰囲気になってきた二人の間にタツヤが入る。
「とりあえず、しばらくは三人で慎重に動こうや。レイカの言うとおり、こんなすぐに諦めたなんてことはないだろ。
でも、ただ逃げてるだけってーのはムカつくから、こっちも奴らの正体を調べてみるか」
「どうやって?」
彼はまだレイカを睨みながら聞いた。
「ネットで。あれだけの人間が拉致されてんだぜ?何か噂があっても不思議じゃない。
役に立ちそうな情報もあるかも…」
「もしそんな情報があったとして、それでどうするわけ?」
レイカが問う。
しかし、タツヤは少し沈黙し、「さあ?」と首を傾げた。
「うわー、無計画ー。そういえば、この計画も脱出後どうするかなんて考えてなかったし。勘弁してほしいよなぁ」
ジトっとした視線を後ろの席から感じながら、タツヤは笑った。
「ま、いいじゃん。深く考えるなって。情報もないよりあったほうがいいし。他に俺達が今、出来ることってないだろ?」
「…まあ、そりゃそうだけど」
彼は渋々頷く。
「たとえ思いつきの行動だろうと、結果がよければ全てよしだ」
「まだ、何の結果も出てないけどね。しかも、いい結果が出る確率は低い」
レイカの冷静な指摘にタツヤは引きつった笑い声を上げた。
そうこうしている内に、三人を乗せた車は町外れまでたどり着いた。

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