《MUMEI》
ドSドクター
加藤るりは、真剣に言った。
「患者が気分悪いから止めてくださいってお願いしたら、普通はすぐ止めますよね?」
「普通…。普通って何ですか。難しいですよ。普通という概念は。何が普通なのか」
そうやってゆっくり話している間にも、快感は増していく。手遅れにならないうちに止めさせねば。気の毒にるりの額には汗が滲んできた。
「とにかく一旦止めてください」
「だからなぜ?」
感じてきてしまったなどと、女の口から言えるわけがない。意地悪にもほどがある。るりは怒った。
「早く止めて!」バンと機械を叩く。
「やめてください。壊れて止まらなくなっても知りませんよ」
るりは両手を機械から離した。これ以上の脅し文句はない。
「院長先生。これだけ女性患者が止めてくださいってお願いしているんだから、何かあると思わないんですか?」
「ワガママは聞きません」
「ワガママじゃありません!」
るりは困った。いよいよまずいことになってきた。息づかいが荒い。
「院長先生。意地悪しているとしか思えません」
「意地悪?」
とぼけた声と顔。見冬は、口を大きく開けて、パンと手を叩くと、るりを指差した。
「やっとわかりました。気分が悪いんじゃなくて気持ちよくなってきちゃったんですね」
るりは真っ赤な顔をして俯いたが、早く止めてほしいから否定はしなかった。
「それで私が意地悪して、機械をわざと止めないと言いたいんですね」
「違うと言うなら止めてください」
「止めません」不動心の無表情。
「なぜです?」
「誤解ですよ。だって今機械のつまみは弱ですよ?」
「じゃく?」
「見てごらんなさい」
「いいから早く止めてください!」
「あっ、そういう態度なら知りませんよ」
「わかりました、ごめんなさい」るりは慌てて謝るしかなかった。
「いいですか。つまみが弱・中・強となってるでしょう?」
「はい」
「今弱ですよ。意地悪するのが目的なら、強にするでしょう?」
見冬がつまみを掴む。るりは急いで院長の手首を掴んだ。
「わかりましたから、やめてください」
「何触ってるんですか?」厳しい目。
るりは仕方なく手を離した。次の瞬間つまみを強へ回した。
強烈な刺激が下半身を直撃する。
「あん…」
不覚にも変な声を出してしまった。るりは口を両手で塞いだが、迫り来る快感に腰が浮く。
「ちょっと、止めてください!」
しかし見冬は冷静に話す。
「わかりましたか。こういうのを意地悪って言うんですよ」
「警察に言いますよ」るりが睨む。
「警察?」
声が裏返っている。
「警察とはまた穏やかではないですねえ」
早くしないと間に合わない。
(まさかあたしをイカす気?)
そこまで残酷なことはしないだろうと思っていたが、この医者ならわからない。
るりは上体を起こすと機械を見た。
「何してるんです?」
見冬を無視してマシーンの横を見る。青いボタンがある。上には赤いボタン。赤が停止だろう。るりは赤いボタンを押した。
すると、マシーンが激しく振動し、電気ドリルマッサージが作動した。るりの弱点を攻めまくる。
「あん…あああん!」
恥も外聞も忘れて彼女は悶えた。
「止めて、お願い」
「自分で押したんでしょう」
るりは見冬の白衣を掴んだ。
「一生のお願い止めて」
色っぽい声で哀願するところを見ると、どうやら限界らしい。
「警察に言います?」
「言いません。絶対言いませんから」
「あなたは言うタイプですよ」
「意地悪したら言いますよ。許してくれたら言いません」
口が滑った。
「あれ、私のせい?」
「違います、違います、ごめんなさい。あたしが悪いんです」
「認めますか?」
「認めます。ですから早く…」
ダメだ。
「早く早く止めて、早く、あ……」
見冬はマシーンを止めたが、時すでに遅し。るりは倒れ込むと腕で顔を隠し、しばらく立てなかった。
(信じらんない…)

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫