《MUMEI》
穏やかな時間
 タツヤはとりあえず見つけた空き地に車を停めた。
「こっからは歩くぞ」
タツヤの言葉に二人は頷く。
三人は車から降り、町の中心部へと歩き始めた。
「なあ、腹減らない?」
歩きながらタツヤは胃の辺りをさすっている。
そういえば、昼に食べたきり、水すら飲んでいない。
「町についたら食事だな」
「……先にまず服、代えた方がよくない?特にあたしとあんた」
言われて彼は、自分の服を眺めた。

怪我をした部分が破れ、血が渇いて茶色くなっている。
ついでにレイカの服を見ると彼以上に血で汚れ、逆に元々そういう柄なんじゃないかと思えてくるほどだ。
もちろん、その血はレイカのものじゃない。
比べてタツヤは泥の汚れが目立つ。
「あー、だな。風呂も入りたいな。俺、よく考えたら十日ぐらい入ってねえや」
三人の意見がまとまったところで、タツヤは「そういえば…」とポケットを探りだした。
「俺、これだけしか持ってないんだけど…」
そう言って差し出したタツヤの手には、クシャクシャになった千円札が四枚と小銭が少々。
「少な!」
思わず心の声を口に出しながら、彼もポケットに手を突っ込む。
「俺はこんだけ…」
彼の手には一万円札が小さく丸まっている。
「お前だって似たようなもんじゃん」
「タツヤよりマシだ」
「うるせえよ。けどこれで三人分の服買えるか??」
自然と二人の視線がレイカに向く。
彼女は無言でポケットから財布を出した。
「うお!こいつ財布持ってる!あんな状況でまだ持ってるとは。しかも財布だけ汚れてねえ!」
タツヤのふざけた調子を一切無視して、レイカはお札を取り出した。

その金額八万円。

「……なんでこんな持ってんの?」
「お金、おろしたばっかだったから」
「よし、三人合わせて約十万。なんとかなるな」
そして三人がたどり着いたのは、彼が住んでいた町から車でニ時間ほど先の町だということがわかった。
話を聞いてみると、タツヤもレイカも彼と同じ町に住んでいると言う。

変な偶然もあるもんだと感心しながら、三人は銭湯へ行き、服を着替えて夕食をとった。
そして最終のバスに乗り込み、ひとまず自分たちの町へと戻ることにした。

その時間だけは、三人にとって久々に穏やかな時間だった。

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