《MUMEI》
担任との話
瀬川は特に問題が無いらしく、すぐに教室から出てきた。


(いよいよだ)


俺は、少し緊張しながら忍と教室に入った。


(うわ…)


気合いの入った担任の前には、大学のパンフレットが多数置いてあった。


「失礼します」


俺と忍は、そんな担任の向かい側に座った。


「祐也は高山家が経営する会社に就職します」


担任が口を開く前に、忍がきっぱりと言った。


「し、しかし…別に今すぐではなくても」

「先方が今すぐとおっしゃっています」

「…っ …田中!」

「はい?」


担任が俺を見つめてきた。


「田中は、大学に興味無いのか!?」

「はい」

「『はい』って…」


(だって本当だし)


俺は、大学に行きたいと思った事は一度も無かった。


ただ、俺の学力ならそれが普通だから


それが、旦那様の望みなら、大学に行ってもいいと思った事はあった。


どちらにしても、大学そのものに興味があったわけでは無かった。


「それで、後悔しないか?」

「しません」


俺の返事を聞いて、担任は何も言えなくなった。


俺が本気で後悔したのは、弘也にレイプされた時と、旦那様が死んだ時だけだった。

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