《MUMEI》
それぞれの過去
バスの中で三人は初めて自分たちのことを話した。
もっとも、レイカだけはほとんど自分のことは話さなかったが、それでも珍しく会話に参加していた。

タツヤは昔から運動神経だけは良く、スポーツやらケンカやら手当たり次第に手を出していたらしい。
面白そうなことは一通り経験しておこうというのがモットーなんだそうだ。
タツヤの性格からして広く浅く色々悪さをしてきたんだろう。
ちなみに今は、やりたいことを探している最中らしい。

「…で、お前は?」
タツヤは彼に話題を振る。
彼は中学、高校共に野球部。強くも弱くもない平凡なチームの投手だった。
成績も平凡なはずだったのに、なぜか大学受験に失敗した。

高校卒業後は、たまにバイトしながらブラブラ暮らし、そのうち、ちゃんと就職して、平凡に生きていければと思っていたのだが……
「災難だよな、俺達」
 彼とタツヤは深々と溜め息を吐いた。

「それで?」
タツヤは今度はレイカに顔を向けた。
しかし、彼女は何も言わない。
「ま、言いたくないなら別にいいけど…。でもせっかく一緒に行動してんだから、友好を深めようぜ?」
別にいい、と言いながら興味津々なタツヤ。
レイカについてはタツヤ以上に謎だ。
その無表情から彼女が何を考えているのかもわからない。

レイカは何か考えているのか首を傾げ、しばらくして口を開いた。
「親はいない。十八まで施設で育って、今は…働いてる」
「親、いないのか?」
彼の問いに頷くレイカ。
なんとなく沈黙が辺りを漂う。
そんな空気を変えようと口を開いたのは、やはりタツヤだった。
「そっかそっか。お前がそんなに無愛想で無表情なのは、きっと愛情に飢えてるからなんだな。
よし、わかった。だったら俺の彼女にしてやるよ」
言いながらレイカの肩に手を回す。
「いやー、俺がフリーでラッキーだったな。俺の彼女なんて、そうそうなれるもんじゃないぜ?」
レイカの目が冷たく光る。
「今すぐこの手をどけないと、刺す」
いつの間にか、彼女の右手にはナイフが…
タツヤはそぅっと肩から手を離しながら「じょ、冗談で〜す」と顔を引きつらせた。
「こっちも冗談。本気で刺すわけないじゃん」
口の端を上げて笑うレイカを見て、彼は思った。
(今のは、絶対本気だった)

バスが到着すると時刻は深夜近くになっていた。
こういう時に限って、三人を泊めてくれるホテルも見つからない。
仕方なく三人は危険を承知でひとまずタツヤのアパートへ向かうことになった。
タツヤに付いて歩き出した時、レイカはふと後ろを振り向いた。
「どうした?」
「いや、なんか見られてる気がしたけど…。なんでもない」
レイカはまだ後ろを気にしながら歩き出した。
彼も後ろを振り返る。何も見えない。
彼はよくわからない嫌な予感を覚えながら、二人の後を追った。

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