《MUMEI》 犯罪の立証加藤るりは、警察署の敷地に入ったが、入口の前まで来て躊躇した。 屈強な警察官がこちらを怖い顔で見ている。るりはムッとした。 (威圧する相手を間違えてるわよ) 怪しまれるといけないので、るりは警察署の中に入った。 受付はどこかと探していると、男が近づいてきた。 「違反?」 「違います」 「免許の書き替え?」 「違います!」 彼女が怒った調子で言うと、どこかへ行ってしまった。るりは一瞬帰ろうかと思った。 その頃、泉沙知は休憩場所でくつろいでいた。普段はグレーのスーツを着ている。 背後から怪しい気配。忍び足で近づいて来る。先輩の赤山法子に違いない。 「不意打ち!」 「きゃははははは…」 後ろから両脇をくすぐられ、沙知はソファにうつ伏せのまま倒れ込んだ。そこを小太りの法子が馬乗りでくすぐる。 「きゃははははは…降参、降参」 「ダメだな沙知、そんなんじゃあ」 沙知は顔が赤い。 「あたしダメなんですよ。子供のときから弱くて。脇に手入れられただけで終わっちゃいますもん」 「そんなんじゃ女スパイにはなれないよ」 法子は髪も洒落っ気がない。仕事一筋やる気満々だ。 そこへ婦人警官の星巻夏実が来た。プライベートでも3人は仲がいい。 「何やってるんですか?」 「夏実はくすぐり得意?」 「普通、みんな苦手なんじゃないんですか」 法子は立ち上がると、いきなり前から夏実の脇腹をくすぐった。 「きゃははは、ちょっ…」 そのまま仰向けでソファに押し倒すと、上に乗っかってくすぐりの刑。 「やははは、やめははははは」 真っ赤な顔をして脚をバタバタしている。沙知が法子の両腕を掴んで止めた。 「ダメですよ、パワハラですよ」 「みんな弱いなあ」 夏実はさすがに怒る。 「何するんですか、いきなり!」 「訓練よ」 「余計なことしないでください。息できなかったんだから」 「二人とも拷問に屈するタイプだね」 「何サボってんだ」 有島課長が来た。署内一柄が悪い。いつもスーツで渋く決めている強面課長だ。 「沙知、今空いてるか?」 「特訓中ですよ」法子が答えた。 「何の?」 「くすぐりの」 有島は一瞬怯む。 「警察署は遊び場じゃないんだぞ」 「でも課長。沙知の囮捜査が失敗して敵の手に落ちて、犯人に手足拘束されて、にひひひって一枚一枚剥がされて、くすぐり拷問されたら、彼女弱いから耐えられないですよ」 「危ない動画の見過ぎだよ。何がにひひひだ。男かおまえは」 「動画の見過ぎは課長でしょ?」 「うるせえ。それより沙知。加藤るりさんっていう若い主婦が、クリニックでわいせつ行為をされたらしい」 「はい」沙知は真剣な顔に変わった。 「できれば話すのは女性警察官が希望だそうだ」 「わかりました」 沙知は個室でるりと会った。 「こんにちは。泉沙知と言います。どうぞおかけになってください」 るりは神妙な顔をしてすわった。 「どうされましたか?」 「はい」 るりは、産婦人科で何をされたか。すべて沙知に話した。沙知は犯罪の立証が難しいケースと思い慎重になった。 「加藤さん。二三質問します。辛いことも聞くかもしれないけど、怒らないでくださいね」 「はい」るりは緊張した。 「まずその医師は、体を触りましたか?」 るりは記憶を辿った。言われてみれば、触られていない。 「体は、触られていません。でも、マシーンを使って膣内をかき回されたんですよ。レイプですよ」 ムッとする彼女を冷静に観察しながら、沙知は質問を続ける。 「医師は始めから、膣内洗浄機と言ったんですね?」 「あっ…」 膣内洗浄機だから膣内を攻められても不思議ではない。るりは顔をしかめた。 「でも、あの機械おかしいですよ絶対。逮捕して調べてください」 「あの、加藤さん。その、エクスタシーには?」 一瞬答えに窮したるりだったが、小さな声で呟いた。 「そこまでは…」 「……」 前へ |次へ |
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