《MUMEI》
眠れぬ夜
 アパートに着くと、三人は用心深く部屋の中と外を調べた。
というのも実は、銀行に行った時に提示した身分証明書から三人の住所が奴らに知られているからだ。
しかし、タツヤが提示した免許証は住所変更をしておらず、ここの住所は知られていない。

そういう訳でここに来たのだが、タツヤの家族に聞けば一発でわかってしまうだろう。
決して安心は出来ない。
 結局、何も変わったところもなく、タツヤは窓のカーテンを閉めて寝床の準備を始めた。
「ほら、とっとと寝るぞ。ああ、ベッドはレイカが使えよ。俺とお前は床で雑魚寝な」
 そう言いながら、タツヤは掛け布団がわりにバスタオルを持ってきた。
レイカはすでにベッドに上がっている。
「そんじゃ、明日は早朝起床ってことで」
「なあ、ほんっとに平気か?」
何か言いたそうな彼に、タツヤは横になって、めんどくさそうにヒラヒラと片手を振った。
「平気平気。ま、心配なら起きとけよ。俺は寝る。睡眠不足だと頭回んねぇからな」
そう言うと、すぐに寝息をたて始めた。
相変わらずの寝付きの良さである。
「あたしも寝る。多分、今夜は大丈夫。寝れる時に寝といた方がいいよ」
 珍しくレイカは彼に話し掛けると、ベッドに丸まった。
その様子を見て、仕方なく彼も横になる。

確かにレイカの言うとおりだ。
これからどうなるかわからない。
(…にしても、この二人はどんだけ肝が据わってんだよ。突然窓から撃たれるかもしれないのに。俺が臆病なだけなのか?)
何日か振りの静かな夜。
床もコンクリートではなくカーペットで、あそこよりも寝心地はいい。
それでもあそこにいた時より眠れそうにない。

彼は二人に聞こえないように小さく息を吐き、目を閉じた。

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