《MUMEI》
後輩 1
翌朝、三人は朝食を取るためファーストフード店へ向かった。
三人が喋りながらモーニングセットを食べていると、背後に人の気配が近づいた。
三人は同時に勢い良く振り返る。
するとそこには、一人の若い男が驚いた表情で立っていた。
「あ、あの、お久しぶりです、先輩」
男は彼に向かって頭を下げた。
「あれ?立川じゃん。久しぶり。…何してんの?」

レイカとタツヤが問うような視線を彼に向ける。
「ああ、俺の高校の後輩」
「ども。立川です」
彼の紹介に立川は頭を下げた。
「で、こんな朝早く何してんの?」
「いや、夜勤明けで。朝飯買って帰ろうかと」
立川は手に持った袋を軽く上げて見せた。
「ああ、確か警備員だっけ?」
「ええ。それで先輩は何を?家ここらじゃないですよね?」
「ん、まあ…」
彼はタツヤとレイカに一瞬視線を走らせ、曖昧な返事を返した。

「まあまあ。それより立川君さあ、家にパソコンあるかな?」
タツヤが馴れ馴れしい口調で話し掛ける。
 立川はとまどった表情を浮かべながら頷いた。
「おお、ラッキー。貸してくれない?ちょっとだけでいいから」
 彼は慌ててタツヤを近くに引き寄せた。
「おい、立川を巻き込むなよ」
隣でレイカも厳しい目をタツヤに向けて頷いている。
「別にただパソコン借りるだけだぜ?ネットカフェでもいいけどさ、どうせならタダで借りたほうがお得だろ?お金は節約しないとな」
ニヤっと笑みを浮かべ、タツヤは右手の親指と人差し指で円を作って、彼の目の前に出した。

「おまえな……」
「いいですよ?先輩、必要なんですよね?俺のでよかったら」
彼が言い返そうとした時、立川がにこやかに頷いた。
「あ、そう?君、いい後輩だねぇ。あいつも幸せ者だ。じゃ、行こうか」
タツヤは飄々と、立川を連れてさっさと店を出ていってしまった。
「おい、待てよ!」
彼とレイカも後に続く。
三人と立川は少し歩いた先にある公園へ入った。
「すいません。ちょっと待っててもらえますか?俺の家ってこの先なんですけど、ちょっとえらいことになってるんで片付けてきます」
「気にしなくていいって。行こうぜ?」
「いえ、ほんとに汚いんで。すぐ戻りますから」
そう言って立川は一人、走って行ってしまった。
「…奴らが立川まで狙ったらどうすんだよ?」
彼はタツヤを睨んだ。
「いくらあいつらだって関係ない人間を殺したりしないだろ」
「保証はないけど?」
レイカも冷ややかな視線をタツヤに送る。

二人から責められ、タツヤは苦笑しながら肩をすくめた。
「わかった。悪かったよ。ま、今回はあいつも好意で貸してくれるって言うんだから別にいいよな?」
 まるで悪びれていない様子でタツヤは言った。
その時、立川が走って戻って来た。
「すみません。お待たせしました」
「悪いな、無理言って」
「いえ、平気です。さ、こっちです」
 三人は立川に付いて歩いていく。

しかし、連れて行かれたのは、ほとんど人が通らない裏通り。
「立川?お前の家って…」
彼の言葉に立川は立ち止まった。
「……家なら逆方向ですよ。先輩」
振り返った立川の表情は、さっきまでとはまるで別人のようだった。

前へ |次へ

作品目次へ
ケータイ小説検索へ
新規作家登録へ
便利サイト検索へ

携帯小説の
(C)無銘文庫