《MUMEI》

物怖じする訳もなく、饒舌に七生は座ったままで朗読を始める。
間髪入れず勝手に始まってしまっていたというのか。
自然と、場も引き締まる。
とてつもない声量で、座りながら森鴎外の舞姫の一節を六十秒程度読んだ。



「――――――あ……なんかそんなようなかんじの……忘れた。」

もっと聴きたかったが、本人が肝心の所を暈た。


「いやいや、凄いのはよく分かったよ。流石瞳子が見初める逸材なだけある!」

上機嫌でお父さんは褒め讃えた。


「もう!すいません、父も機嫌が良いのです。」

明らかに嫌われたくない一心で瞳子さんは七生へフォローを入れた。


「案外、この中に瞳子の未来の旦那がいるかもしれないなあ。」

お父さんは七生を示唆するように目配せしていたが等の本人は全く気付いていなかった。


「兄さん……他人事じゃない話しだ、松代家は北条の私生活でも仕事でも良くして下さっているのだから、友好的にすべきだ。」

大人しかった神部が口を開いた。


「俺は皆と仲良しだ。」

きっぱりと七生が断言するものだから、吹き出しそうになる。


「……おめでたい奴。」

乙矢と目が合って逸らしてしまった。


「ん?オメデタ?」

馬鹿七生……


「そうだね子供はいい、七生君は何人欲しい?」

七生のボケをお父さんは聞き漏らさなかった。


「愛し合った上で子供が生まれるわけでしょ、だから特に何人とかは考えてない。好きな人と愛していける子供がいればいいとは思うけど。」

愛し合って生まれるなんて……性が見え隠れしてる表現だ、七生が使うといやらしく聞こえてしまう。

朗読のときもそう、



いやらしい声で、

いやらしい目線をして、

いやらしく唇を動かす。

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