《MUMEI》
後輩 2
「おい?立川?」
「なんっか、よくない雰囲気だな」
タツヤが後ろを振り返ると、三人の男が手に金属バットを持って立っていた。
「あ!お前ら……」
「ひょっとしてこいつらも高校の後輩とか?」
頷く彼に、立川は静かに言った。
「先輩、俺たちのために、死んでくださいよ」
「はあ?何言って……」
しかし、立川は目をギラつかせて後ろの三人に「やれ!!」と号令を掛けた。
「おっと!!」
号令と共に振り下ろされたバットをタツヤは身軽に避ける。
同じように避けながら、レイカはポケットからさっき手入れしたばかりのナイフを取り出し、近くの男に向けた。
その様子を見た彼は、立川から逃げながら叫んだ。
「ダメだ。こいつらは奴らの仲間じゃない!殺すな!」
しかし、レイカの動きは止まらない。
「タツヤ!!」
「チッ。しょうがねえな」
彼に呼ばれ、タツヤはバットを振り回す男に蹴りをくらわすと、そのままレイカを突き飛ばした。
「何を…!?」
思わぬ方向からの攻撃にレイカは体勢を崩し、尻餅をついてしまった。
「こいつらは一般人だ。殺したら俺ら、犯罪者になっちゃうぜ?」
言いながら、タツヤは大きく振りかぶった男の隙をついて脇腹に一発、膝に一発蹴りを入れる。
メキっと嫌な音が響き、相手は叫び声を上げて倒れた。膝の骨が割れたのかもしれない。
「だったらどうしろって?言っとくけど、あたし武器がないと弱いから」
憮然とした表情でレイカは立ち上がった。その彼女を目掛けて、後ろから立川が殴り掛かる。
「だから…」
タツヤは転がってきたバットを拾うとレイカの後ろを目掛けて投げつけた。
「ギャ!」
バットは見事に立川の顔に命中して、レイカの足元に転る。
「それ使え。殺さない程度におもっきりやれよ。いいか?加減を忘れるな」
レイカはバットを拾い上げ、渋々頷いた。
タツヤはそれを確認して、二人に襲われている彼を助けに走って行った。
「おい!お前、生き延びる気あんのか?」
タツヤが一人を蹴り飛ばしながら彼に怒鳴った。
彼はどんなに攻撃を受けようと決して反撃しようとはしない。ただ必死に逃げるだけだ。
「だって後輩だぞ?いい奴らだったんだ」
「いい後輩は、先輩を殺そうとはしないと思うぜ」
タツヤの蹴りが腹に決まる。その相手は胃液を吐き出し、膝をついた。
「そうだけど、何か理由があるんじゃ…」
相変わらず攻撃を避けながら、彼は言った。
「だったらその理由とやらを聞くためにも、まずは片付けねえと。別に殺すわけじゃないんだからよ」
バットを持った二人は、タツヤを警戒して少し距離をとった。
「………わかったよ」
意を決して彼は構えた。
「よし!お前はそっち、俺はこっちな」
そう言ってタツヤが飛び出す。彼も拳を振り上げた。
その頃、レイカは与えられたバットで的確に立川を攻撃していた。
すでに立川は戦意を喪失しているのか、腰が抜けているのか、仰向けに倒れたまま動かない。
「どれだけ殴れば死ぬんだろ?」
危ない独り言を呟きながら、タツヤと彼の様子を眺める。
どうやら、向こうも終わったらしい。相手が動かなくなったのを確認して戻って来た。
「おい!立川殺してねえだろうな?」
「たぶん」
彼は立川の顔を覗き込んだ。生きてはいるが意識がない。顔がひどく腫れ上がり、呼吸が早い。
「生きてるだろ?」
「死ぬ一歩手前だ!」
その時、三人の後ろのほうから何やら声が聞こえた。
振り向くと、通行人らしき女性が携帯を片手にどこか電話している。
「やべ!逃げるぞ!!」
タツヤの一声で、三人は一目散に逃げ出したのだった。
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