《MUMEI》
本物
行くと決めたものの、約束の時間にはまだかなりある。
ほかにも何かないかといろいろ検索してみたが、めぼしい情報は何もなかった。

「どうする?」
店から出て歩きながら彼は聞いた。
「そうだな。…じゃあ、これのことでも聞きに行ってみるか」
そう言ってタツヤが取り出したのは、グシャっと丸まった一枚の紙。

よく覗き込んで見ると、それはこの災難の始まり、あの『宝くじ』だった。
「うわ!まだ持ってたのか?」
「一応。お前らのは?」
「俺はもう持ってない」
 あそこに行った最初の日、ボロボロになってどこかに落としてしまった。
「あたし、持ってる」
レイカは財布から、きれいな状態の宝くじを出し、タツヤに渡した。
「で?これの何を聞くって?」
「これが本物かどうか。……見ろよ。これ、番号一緒だ」
差し出された二枚を彼とレイカも見比べる。
確かに全く同じだ。
おそらく、彼のも同じ番号だったのだろう。

「あ、あそこで聞いてみようぜ」
ちょうど近くに宝くじ売り場を見つけ、三人は暇そうに座っているおばさんに声をかけた。
「なんだい?」
「これなんだけど、いつの宝くじかわかる?」
タツヤが一枚をおばさんに渡す。
おばさんは目が悪いのか、目を糸のように細めてそれを見たあと、タツヤに返した。
「ああこれは、こないだのジャンボだね」
「ってことは、本物?」
「当たり前だろう。番号見ようか?」
「いや、いいや。でも一応、一等の番号教えてくれる?」
おばさんは胡散臭そうな表情で番号の書いた紙をタツヤに渡した。
「どうも」
紙を受け取った三人は、おばさんの視線を感じながら急ぎ足でその場を離れた。

「ああ、やっぱり一等じゃない」
歩きながら番号を確認していたタツヤが唸るように言った。
「まあ、そうだろうね」
 当然だろうとでも言うようにレイカは頷いた。
「でも、俺は売り場のおばちゃんに一等だって言われたんだぜ?」
「あたしも言われたけど」
「俺は銀行に持って行って言われた」
タツヤは腕を組んで、何か考え始めた。
「ちなみに、レイカが行った売り場ってのはどこらへんの?」
「郵便局の近く」
「俺とは違う場所か」
「つまり、銀行だけじゃなく、宝くじ売り場にも奴らの手が回ってたってことか?」
「少なくともこの町全体にな。…しかも、この宝くじが本物ってことは?」
タツヤの言葉に全員が黙る。

「なあ、宝くじってどこが作るんだっけ?」
「さあ?」
三人が首を傾げる。
「少なくとも民間会社じゃないことは確か」
そう言うレイカに彼とタツヤは視線を送る。
「なんか俺、そうとうやばい感じしてきたんだけど?」
「奇遇だな。俺も同じだ」
彼とタツヤは顔を見合わせて引きつった笑みを浮かべた。
「なあ、俺らの相手って?」
「それは、今夜わかるよ」
レイカが口の端だけを上げて不敵に笑う。

その時、三人の背後から気の抜けたような男の声が聞こえた。
「み〜つけた〜!」

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