《MUMEI》
彼とレイカ
一方、彼は一人で公園へ向かっていた。
走っているうち、いつの間にかレイカとはぐれてしまったのだ。
しばらく探してみたが見つからなかったため、仕方なく約束の公園へ向かって歩く。

約束の公園は今朝、立川と行った場所。
そういえば立川達はあれからどうなっただろう。

ちょうど通り掛かった電気店のテレビで昼のニュースをしている。
彼は立ち止まってそれを眺めた。

政治家の汚職事件やどこかで起きた大きな交通事故、殺人事件。
様々なニュースがアナウンサーから告げられていくが、立川達のことは触れられなかった。
少なくとも誰も死んではいないようだ。

ホッとしながら再び歩き始めると、向かい側の歩道で、一人佇むレイカの姿が見えた。手に何か持っているようだ。

「なにやってんだ?あいつ」
彼は信号が変わるのを待って、向かい側へ渡った。
「おい、何やってんだ?」
 彼が声をかけると、珍しく驚いた表情でレイカが振り返った。
「なんだ、あんたか…」
すぐにいつもの表情に戻ると、手に持ったナイフを納めた。
「なんだとは随分だな。そんなにビビるくらいなら、こんなとこに立ってんなよ。なんか用でもあるのか?」
「別に。…あんたがはぐれたから探してただけ」
「ふーん?…さっき、なんか持ってなかった?」
なんとなく様子がおかしいレイカを彼は見つめた。
「ナイフでしょ?一本、血で錆びて使えなかったから、新しいの買った。
もっといいのを買いたかったけど高くて…」
そう言って新品の折り畳みナイフを見せてくれた。
その口調に変わったところはない。
(……気のせいか?いや、いつもよりよく喋る気がする)

「…まあ、いいや。早く行こうぜ。タツヤ、もう来てるかも」
「そういえばさっき、変な奴に襲われたから気をつけたほうがいい」
「変な奴?」
「多分、Jデリーのメンバー。さっきから見てたらここら辺でもウロウロしてる」
彼も辺りを見回す。
そういえば時々こちらを気にしている少年達がいる。
「人が多いと襲ってこないみたい」
それでここに立っていたのかと彼は納得した。
ここなら絶えず人が多く、公園への通り道だから彼のことも見つけやすい。

「じゃ、人の多いところを選んで行こう」
頷くレイカと彼は周りを警戒しながら足早に公園へ向かった。

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