《MUMEI》
愛は会社を救う(86)
しばしの沈黙に続いて、丸亀が静かに語り始めた。
「受け取ったファックスは、どうでもいいような書類に混ぜて回覧したり、酷い時には私が上司の決済印を捺しただけで回覧さえせずに、山下クンに渡していました。そのことを彼女は、全く知りません」
話している内容を除けば、その男の口調や表情は、まさに実直なサラリーマンそのものだった。
「彼女にも、情報を独占したい気持ちがあったんでしょう。封筒、クリアファイル、バインダー…オリジナルのファックスは、他人にはわからない場所に隠すように整理していました。後で在り処を調べてインデックスを作ったが、通達の中身なんて、私には何の興味も無い。本当に山下クンだけが、オリジナルの情報を独占できるような体制を作り上げたんです」
私はできるだけ刺激を与えないように、その理解を超えた行動の真意を尋ねた。
「なぜ、そんなことを?」

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