《MUMEI》
図書館
図書館は予想通り、人が多く、Jデリーのメンバーらしき少年もいなかった。
三人は空いていた席を見つけて座った。

「それで?あいつらはサイトの殺人依頼を見て襲って来たのか?」
向かいに座ったタツヤに彼は小声で質問する。

図書館は声が響くので、会話をするには注意しなければならない。
特に誰にも聞かれたくない会話だけに、いつも以上に慎重にならねば。
「いや、なんか、電話がかかってきたって言ってた」
「電話?」
彼の隣に座るレイカが怪訝な表情をする。
「そう。やたらテンション高い女からで、俺達三人を殺せば三億払うって言われたらしい。ま、あいつは本気にしてないみたいだけどな」
「じゃあ、なんで襲ってくるんだよ?」
「ヒマだからゲームだってよ」
「はあ?ふざけた奴だな。一体どういう教育してんだよ」
「俺に言うな。昔からあいつは壊れた奴だったんだ。あいつなら何してもおかしくねえよ」
タツヤは遠い目をしている。

「とにかく…」
話題を切り替えるようにレイカが口を開いた。
「やたらテンション高い女っていうのは…」
「あ?ああ。間違いなく、ヘリの女だろうな。あの場違い女」
「あいつか」と彼も呟く。
「それじゃ、立川も?」
「そうかも。彼の場合、三億じゃなくて、何か本人が喜びそうな条件出したんじゃないかと思う」
レイカが頷く。
「でも、なんでよりによって俺の後輩に」
「だよな」
「よりによって、ていうより後輩だから、じゃない?」
難しい顔で考え込む二人にレイカが言った。
「えーと、つまり、俺らの情報が奴らに知られてるっつーこと?」
「多分。他人よりも知り合いの方があたしたちの居場所を予想しやすいし、油断するからね」
「マジかよ。冗談じゃねえ」
三人とも、神妙な顔で黙り込む。

レイカの話が本当だとすると、知り合いどころか身内すら信用できない。
これから何が起こっても、誰かを頼ることは出来ない。
「しかし、三億か。いやー、俺達ってかなり大物だよな」
「…うれしい?」
「…いや、全く」
彼は机に肘をついて、首を振った。

「よし!!」
突然、勢いよくタツヤが立ち上がった。
周りの人からの迷惑そうな視線が痛い。
「なんだよ?」
「俺は決めた!何がなんでも奴らの正体を暴いて返り討ちにしてやる!!」
タツヤは大きな声で決意表明した。
「ゴホン!」
わざとらしい咳がタツヤの言動を注意している。
「おい、声でかいから。とりあえず座れよ」
彼は周りに頭を下げながらタツヤを座らせた。

レイカは全く他人のふりを決め込んでいる。
いつの間に持ってきたのか、本を開いている。
「頼むから落ち着け。追い出されるぞ」
「おお、悪い。でも、俺はやるぜ!お前らもやるよな?」
タツヤはまるで青春ドラマのように二人の肩に手をやった。
レイカはすぐさまその手を払いのける。
「ああ、やるよ。な?」
彼はレイカに同意を求める。
しかし、彼女は視線だけをチラっとタツヤに送り、「今さら何?うざいよ」と冷たい言葉を投げ掛けた。

また怒りで大声を出すんじゃないかと構えた彼だったが、意外にもタツヤは決まり悪そうに「だよな」と頭を掻いただけだった。

前へ |次へ

作品目次へ
ケータイ小説検索へ
新規作家登録へ
便利サイト検索へ

携帯小説の
(C)無銘文庫