《MUMEI》
夜十時
三人はとりあえず閉館まで時間を潰すことにした。
タツヤは自分がいなかった約十日分の新聞を読み始めた。
「なあ、あれだけの人間が拉致されたのに新聞に一人も失踪者が載ってないのはなんでだろうな?」
「日本の失踪者は一日何十人もいる。いちいち取り上げたりしない。死体が出れば別だけど」
レイカが本を読みながら応える。
「死体か。そういえばあの回収車、どこに死体運んでんだろ?」
「さあ」
二人の会話を聞きながら彼は、机に伏せてついウトウトしてしまった。
「おい。そろそろ行くぞ」
体を揺すられ、彼はゆっくり起き上がった。
体中が痛い。
同じ体勢で寝ていたせいだろう。
「今、何時だ?」
「八時前」
うっかり眠り込んでいたようだ。
「お前なあ、こんな状況で無防備すぎるぞ」
タツヤが呆れ顔で彼を見ている。
「悪い。昨日寝れなかったから」
「まあ、俺らが起きてたからいいけど。さ、行くぞ」
「どこへ?時間まであと二時間あるだろ?」
彼は寝ぼけた頭を叩き起こしながら立ち上がった。
「ここ、八時に閉館するから」
「そ。だから、腹も減ったし、先にファミレス行って飯でも食おうかと思って」
レイカも頷く。
そういえば、彼も空腹であることに気付いた。
「わかった。行こう」
彼は頷き、出口へと向かった。
「ここだな」
タツヤが店名を確認する。
間違いなく指定されたファミレスだ。
三人は、このまま行って相手に気付かれてはまずいと考え、途中で見つけたディスカウントショップで変装道具一式を買った。
黒ブチ眼鏡や、サングラス、洗い流せるヘアカラースプレー。
一応、安い服も見つけたのでTシャツだけ着替えた。
タツヤはサングラスをかけ、彼は黒ブチ眼鏡、レイカは髪の毛を茶色に染めた。
これで多分、一見して三人とは気付かないだろう。
事実、Jデリーのメンバーの前を堂々と横切ったが、全く気付かれなかった。
「よっしゃ、入るぞ」
サングラスの効果か、一段とガラが悪くなったタツヤに続いて彼とレイカも店に入った。
店内は結構、賑わっている。
三人は案内されるがままに席についた。
ちょうど入口が見える位置だ。
逆に言うと、入口からこちらが丸見えだ。
「まだ来てないみたいだな」
彼は何気なく店内を見回した。
誰がその相手なのかわからないが、店内にいるのは家族連れにカップルなどで、それらしい人間はいない。
「あまりキョロキョロするなよ。まだ時間はある。軽くなんか頼もうぜ」
タツヤはそう言うとメニューを開いた。
「けど、どうやって捕まえるんだ?一人で来るならなんとかなるけど、もし何人も一緒に来たらどうする?」
運ばれてきた料理を口に運びながら彼は言った。
相手が一人で来るという保証はどこにもないのだ。
「そんときゃ、なんとかするんだよ」
相変わらずの無計画さに彼は無意識に溜め息をついた。
「あー、あれだ。ほら。相手が二、三人なら不意打ちでもくらわせればなんとかなる。万が一、それ以上だったら、ひとまず退却だ。な?」
彼の溜め息を聞いたタツヤは、今決めたであろう計画を伝えた。
「ま、いいんじゃない」
どうでもよさそうにレイカは料理を食べている。
「…まあ、いいか」
彼も納得し、満腹になるまで料理を詰め込んだ。
そして、約束の夜十時。
時間ピッタリにそいつは現れた。
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