《MUMEI》 油断大敵瞳を閉じて荒い息を整えている沙知。淳平は恐る恐る聞いた。 「大丈夫ですか?」 「ダメ」 「すいません」 淳平が頭を下げたので、沙知は急いで言い直した。 「嘘嘘、大丈夫。危ないところだったけど助かったわ。ありがとう」 「本当ですか?」 「ほどいて」 「はい」 淳平は手首のベルトを外してから、両足もほどいた。たまらなく魅惑的な脚線美に見とれながらも、淳平は汗びっしょりの沙知をいたわった。 「大丈夫ですか?」 「大丈夫よ。助けてくれてありがとう」 「そんな」 照れる淳平。考えなしにマシーンをどかそうとする。 「待って」 「え?」 「下は何も身につけてないから」 「あっ、そうか」 「淳平」 有島課長が見冬の白衣を強引に引っ張って来た。 「部屋から出よう」 「はい」 有島と淳平は、見冬を連れて診察室から出た。 沙知はゆっくり悶絶マシーンを外す。 「ふう…」 裸の沙知は、そのままベッドに倒れ込んだ。うつ伏せになり、脚をしきりに動かす。 快感の余波に、しばらく悶えた。 彼女は枕を抱きしめ、唇を結び、目を閉じる。しばらくじっとしていたい。 だが、力を振り絞って四つん這いになると、ベッドを片手で叩いた。 「こんなことすれば女を虜にできると思ったら、大間違いよ」 沙知は力強く立ち上がると、ムッとした表情で服を着る。 勢いよくドアを開けて外に出ると、鍋咲学と岡松悠二が、見冬の両腕を掴んでいた。 「みんな…」 沙知は毅然とした態度で、手錠をはめられている見冬に歩み寄る。見冬は笑った。 「刑事さんのよがる姿は、エッチでしたよ」 「貴様!」 掴みかかろうとする淳平を、沙知は腕で制した。目は真っすぐ見冬を見ている。 「刑事さん。色っぽい声でよがるから、興奮しましたよ」 バキッ! 肘が口を黙らせた。 「あら。手が滑っちゃった」 見冬は邪悪な目で沙知を見る。 「刑事さん。私は死刑ですかね?」 「さあ。それは裁判官が決めることよ」 「いいえ。死刑にも無期懲役にもなりません。すぐに出てこれます。ヘタしたら、執行猶予がつくかもしれません」 沙知は見冬から目を離さない。 「今、肘打ちしたことを謝ってくれたら許してあげます。今謝らないなら、許しません。また私に監禁されることになるでしょう」 「貴様!」 淳平が掴みかかる。今度は有島が止めた。 「刑事さん。刑事さんのことを、今度どうやってかわいがってあげるか。牢屋の中で考えます。ふふふ。ふふふ」 沙知はじっと見冬の目を見ていた。 「怖じ気つきましたか。刑事さん。今謝ったら許してあげますよ。今謝らないなら、そのときに泣きながら許してと叫んでも、ふふふ。いじめます」 「ええ加減にせんか、おまえ。脅迫罪加算したろか」 見冬は鍋咲を見た。 「どうぞ」 もう一度、沙知に向き直ると、見冬は言った。 「刑事さん。どうします?」 沙知は、呆れた顔を見冬に向けた。 「あたしなりの謝罪でいい?」 まさか謝るとは思わなかったので、見冬は驚いた。 「いいですよ。ちゃんと謝ったら許してあげます」 「ふう…」 沙知は深呼吸すると、思いきり右ストレートを鼻の真ん中に叩き込んだ。 「がっ…」 「連れてって」 「来んかい!」 見冬は連行された。 「大丈夫か沙知?」有島が優しく聞いた。 「はい」 「心配するな。オレが必ず守る」 「課長」 沙知が有島を見つめていると、淳平も言った。 「僕も、必ず泉さんを守ります」 「守れなかったじゃねえか!」有島に頭をはたかれた。 「そうよ!」口を尖らせて沙知も頭を叩く。 「違うんですよ。急に煙がふわふわって来たら、ふわふわって眠くなって…」 「眠ってんじゃねえよ」 「痛い」 「そうよ。本当に大ピンチだったんだから」 「油断大敵だぞ」 「すいません」 淳平は平謝りだ。 「よし。共犯者を探すぞ」 「はい」 3人は受付に向かった。 前へ |次へ |
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