《MUMEI》
静かな部屋
静かだった。なにも聞こえない。こんなに静かに眠ったのは久しぶりだ。
彼はゆっくり目を開けた。
(どこだ?ここ)
体を起こそうと力を入れると、首が痛んだ。
手を触れてみると、少し腫れているようだった。
なるべく首を動かさないように起き上がり、左右に視線をやる。
彼は病院にあるようなベットにいた。
すぐ隣にはタツヤもいる。
しかし、レイカがいない。
この部屋にあるのは、彼とタツヤが寝ているベットのみ。
ハッと気付いてポケットに手を入れる。
(取られてない?)
ポケットには、唯一の武器であるナイフが収まっている。
奴らが気付かなかったとは思えない。
わざと残したのだろうか。
彼はふらつく足で立ち上がり、タツヤを揺すり起こした。
「起きろよ!おい!」
しばらく揺すって、ようやくタツヤの目が開いた。
しばらくボーッとしていたと思ったら、大きく背伸びをして起き上がった。
「いやー、よく寝た、って痛っ」
タツヤは首を押さえた。 (呑気なやつだ)
内心呆れながら、彼は言った。
「レイカがいない」
「はあ?レイカが?つか、ここどこだよ?」
ようやく目が覚めたのか、タツヤは目を見開いて部屋を見回した。
「さあな。スタンガンで気絶させられて、気付いたらここだ」
「……で、レイカは?」
「だから、いないって言ってんだろ!!」
「男女別室にされたっつーことは……今さらないわな」
タツヤは一人で自分の意見を否定した。
「考えられるのは、人質になったか、あるいは…」
「あるいは?」
「殺されたか、だな」
タツヤの声が暗い。
二人は一瞬黙り込んだ。
「バカ言うな。なんでレイカだけ殺されるんだよ」
「……だよな?」
タツヤも苦笑いを浮かべて彼に同意するが、その表情は暗い。
「とにかく、この部屋から出ようぜ」
タツヤはそう言うと、ドアの前に移動して、動きを止めた。
「どした?」
彼も後ろからドアを覗き込む。
「このドア、取っ手がねえ」
確かに、そこには普通あるはずの取っ手が付いていない。
鍵もなければ、手を掛けるへこみすらない。
あるのは壁との間にわずかに紙が入る程度の隙間だけだ。
「監禁部屋ってわけか」
「ちくしょう!ナメやがって!!」
タツヤは怒鳴りながらドアを蹴った。
しかし、ドアはピクリとも動かず、代わりにタツヤが足を押さえて跳びはねた。
「いってえ!何でできてんだよ、これ。半端ねえぞ」
さらに激しく動いたため、首に痛みが走ったようだ。
タツヤはその場にうずくまってしまった。
「おい、大丈夫か?」
「おお。余裕だぜ。見てろよ、こんなドア……」
タツヤはバッっ立ち上がりナイフを取り出したかと思うと、ドアと壁のわずかな隙間に突き刺した。
「…こじ開けてやる」
「無理だろ。明らかに、ナイフの方が隙間よりでかいし。先っぽがちょっとしか入ってない」
「うるせえな。黙って見てろよ」
彼の注意を無視して、タツヤはガリガリと隙間にナイフをねじ込もうとする。
目が真剣だ。
やがて、静かな部屋にパキンと軽い音が響いた。
「ん?何の音だ?」
彼が不思議に思いながら言うと、タツヤが先のないナイフを投げて寄越した。
「お、お前!何してんだよ?武器っつったらこれしかないんだぞ?
それを、こんなにきれいに真っ二つに」
「まだ、お前のがあるからいいじゃねえか。俺にナイフは必要ない。俺の武器はこの足だ」
悪びれる様子もなく、タツヤが言った。
「その自慢の足、さっき痛めてなかったっけ?」
「……それよりこの状況、どうにかしねえと」
タツヤがそう言ったと同時に、ドアが音もなく開いた。
「出ろ」
見たことない、黒スーツの男達が二人の腕を縛り上げて、背中を押した。
この状況で抵抗のしようもない二人は素直に従うことにした。
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