《MUMEI》
正体
「は?何言ってんのかさっぱりわかんねえんだけど?」
タツヤはレイカに一瞬視線を走らせて言った。
「なぜ、我々がお前達の後輩を知ったと思う?なぜ、お前達が待ち合わせに来ると分かったと思う?」
「そりゃ、俺達のことを調べたんだろう」
「そうだな。では、その情報源はどこにあったと?」
雨宮の顔に、すでに笑みはない。

彼とタツヤはレイカを見た。
しかし、レイカは二人ではなく、雨宮を見つめている。
いや、睨んでいるのだ。
「事実、今この状況でその女だけ縛られてない」
確かにその通りだ。
なのに、レイカは何も行動を起こす気配はない。
「レイカが情報を流してたっていうのか?」
タツヤは雨宮に聞きながら、レイカを見ている。
「レイカ、本当なのか?」
彼の問いにも、彼女は黙ったままだ。
 代わりに高島がわざとらしく声を上げた。
「あー。せっかく内緒にしてたのに。ダメじゃないですか、雨宮さん。ばらしちゃって」
 高島のぶりっ子な振る舞いが二人の神経を逆なでする。
「ふざけんなよ!レイカがお前らに寝返ったってのか?
そんなわけねえだろうが。だいたい、こっちはあそこを出てからずっと三人で行動してたんだ。
お前らに寝返るどころか、連絡することもできなかったはずだ」
「その通りだ!お前らいい加減なこと言ってんじゃねえぞ!!」
タツヤの言葉に彼が続く。
雨宮は「やれやれ」と溜め息をついた。
「寝返ったとは言ってないだろう」
「何?」
「そいつは最初からこっち側の人間だ。そして……」
雨宮は言葉を切って、口の端を持ち上げて笑った。
「私の娘でもある」
「な!!」
二人は言葉を失った。
一体何を言い出すのか、この男は。
レイカが奴らの仲間だっただけでなく、この男の娘?
いや、まて。
彼は思い出した。
 確かバスの中で、レイカは孤児だと言っていなかったか?施設で育ったと。
「レイカは親はいないって言ってたはずだ」
彼の言葉にハッとしたようにタツヤも頷いた。
「そうだな。たしかに親はいない。しかし、戸籍上は私の娘だ。血は繋がっていないがね」
つまり、養女ということか。

 まったくわけが分からない。
だいたい、レイカが奴らの仲間なら、何故あそこの中にいたのか。
何故、彼らの脱出を手伝い、追っ手を撃墜したのか分からない。
 彼は疑問をそのままぶつけてみた。
「まあ、色々と答えてやりたいところだが、私は次の予定に行かなければならない」
 雨宮はそう言うと 立ち上がった。
「なんだよ?言いたいことだけ言って、逃げるのか?ちゃんと答えろよ」
 彼が食い下がるが、雨宮はさっさとドアに向かう。
「私が答えたところで、信じないのだろう?あとで本人から聞けばいい。
ああ、それから、明日のテストの内容は、その時に伝える」
 雨宮はそう言い残すと出て行ってしまった。
テストどころではない。
一体何がどうなっているのか。
「と、いうことでー。お二人とも部屋に戻ってくださーい」
両手をパンっと合わせて、高島が言った。
「待てよ。まだ聞きたいことが山ほどあるんだ」
「でもー、わたしここでお仕事しないといけないんですよー。彼女にあとで食事を運んでもらうので、その時聞いてくださーい!」
 高島が言い終わると同時に男達が来たときのように、彼らの背を押した。
部屋から押し出されるまで、彼はレイカを見ていた。しかし結局、声を聞くどころか目が合うこともなかった。

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