《MUMEI》

証明写真だとか、証明書だとか…そんな物が要る事自体、僕にとっては驚きだったけど。

『海外は面倒なんですね…』と言ったら『日本の路線の方が複雑だよ…』と言って克哉さんは上に掲示してあった地下鉄の路線図を指さした。

「コレは地下だけなんだろう…」
「はい、僕も把握はしきれてませんけど」

確かに、色とりどりな線が複雑に絡み合っていて、これを見ただけではどこで降りたらどこに行けるのか分からないかもしれない。

「…迷ったら山手線に乗れば大丈夫です、グルグル廻るだけですから」

僕も東京に来た時は、山手線に乗ってあてもなくグルグルと廻っていたっけな…。



「可愛いのが、描いてあるな…」
「ペンギンですか?」

克哉さんはカードを親指と人差し指で挟んでクルクルと回しながら、そこに描かれた絵を珍しそうに眺めていた。

海外ではこんな色んな所、ましてや大人の持っている物なんかにキャラクターを描いていたりはしないんだそうだ。

そういえば日本って警察や消防にまでキャラクターがいるなぁ…。

克哉さんは僕の携帯に付いていたマスコットも手に取り、珍しそうに眺めていた。



「何だココは…ダンジョンか…」
「駅の中ですよ」

駅に着き電車から降りて構内を歩きながら、駅ビルの地下にあるデパートに克哉さんを連れて買い出しに来た。

「人が多いな…」
「この時間帯は少ない方ですよ」
「これでか?」

普段僕一人だけだと適当にコッペパンだけで夕食にしたりするんだけど、今日は克哉さんが来るという事でちゃんと作る事にした。

デパ地下の中は家路に帰る人々がごったがえしていて、はぐれそうになったけど頭一つ分周りより大きな克哉さんをこの中で見失う事は無かった。

でもこんな人混みの中、どうせなら恋人気分を味わおうと、周りを見渡している克哉さんに腕を組んで寄りかかって思いっきり甘えてみた…。

あぁ、もちろん心の中だけでね…。
  

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