《MUMEI》

デパートで買い物を済ませ、しばらく道を歩いていると、人が通らないような坂道に差し掛かる。

二人とも会話が続かずに黙って歩いていると、突然克哉さんが手を繋いできた。

「ぁ///」
「誰も見てないよ…それとも誰かに見られてた方がいいかな?」

たまに人が通るような通りだから、もしかしたら本当に誰かに見られるかもしれない…しかも家の近所だから知り合いとかに会うかもしれないし…。

「恥ずかしいかい?もしかしたら、さっきの人混みの中の方だったらバレなかったかもな」
「え、いや…結構みんな克哉さんの事見てましたし///」

そうなのだ、実際あんなに背の高い金髪の人が居たらかなり目立つので、ジロジロ見てこないまでもすれ違いざまに克哉さんの事を見ている人は結構居たのだ。

だからそんな中で僕らが手を繋いだりしたら…。

考えただけでもクラクラしてしまった。


「そうなのか…俺は、あの時から手を繋ぎたかったんだけどな///」
「え…///」

僕が妄想してた事と同じ事を、克哉さんも考えていたのか…。

そう思ったら克哉さんの顔を恥ずかしくてまともに見られなくなってしまった。

だけど、道も暗いしどうせこんな時間に出歩く人なんか居ないし…。

僕は繋いできた克哉さんの温かい手を、ぎこちなく握り返した。




「本当に狭いんだな…」
「本当に狭いって言ったじゃないですか…」

僕の住んでいるマンションは家族で入るような大きな部屋ばかりなんだけど、そこの一角に空いた変なスペースに僕のような一人暮らしが入る隙間のような部屋があった。

その部屋はマンションの中でも一番日当たりが良い部屋だけど、その代わり変な間取りで狭く見えてしまう。

家族向けという事で子供の声が響かないように防音をきっちりしているのだけど、深夜なんかはシーンと静まりかえって返って寂しいくらいだった。

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