《MUMEI》
黒幕
部屋に戻されてからも、彼とタツヤは無言のままだった。
二人とも頭の整理が追い付かない。
 ただ刻々と時間が過ぎていくだけだった。

やがて、ドアが静かに開いた。
振り向くと、レイカが食事を乗せたトレイを持って立っていた。
 彼女は無言で二人の横に食事を置くと、その場に腰を降ろす。

誰も何も言わない。

皿に注がれたスープから美味しそうな香りが漂ってくる。
 しばらくして、痺れを切らしたタツヤが口を開いた。
「どういうことなんだ?説明しろよ」
「………なにを?」
「全部だよ!!決まってんだろ!」
「落ち着けよ、タツヤ。
なあ、なんで奴らの仲間になったんだ?ていうか、いつからそんなことに?」
彼はタツヤを押さえながら静かに聞いた。
 レイカは大きく息を吐いて、ゆっくりと話し始めた。
「あたしは、復讐のために奴らの仲間になった」
「復讐?誰にだよ?」
「さあ。この国に、かな」
レイカは少し首を傾けた。
「あー。よく、わかんねえんだけど?」
タツヤは眉間にシワを寄せている。
「あの雨宮って男に見覚えない?」
「ない!」
「……俺は見たことある気がするんだけど、思い出せないんだよな」
彼が言うと、レイカは一枚の紙切れをポケットから取り出し、二人の前に差し出した。
「なんだこれ?」
タツヤが受け取ったそれは、新聞記事だった。
その記事には、あの男の顔写真が載っている。
「これ、あいつじゃん」
タツヤは見出しを声に出して読んだ。
「えーと?雨宮議員は公務資金横領疑惑を完全否定?なんだこりゃ?」
タツヤは困った表情で彼を見た。
「つまり、あの男は政治家だってことだよ。しかも黒い疑惑を持った悪党政治家だ」
「すげえ!!悪党なんて政党があるのか!」
レイカと彼の冷たい視線がタツヤに刺さる。
「……冗談だよ。そんな目で見るなよ」
「けど、ということは?ひょっとして黒幕は?」
 彼が問うようにレイカを見る。
それに応えるようにレイカは頷いた。
「これは、国を揚げての一大プロジェクトらしいよ」
「国の?……え!国が率先して国民殺してんのか?人殺しは犯罪だぞ?いいのかよ、それって?」
「いいわけねえだろ!なんでそんなことになってんだよ?俺達が一体何をしたってんだよ?」

思わず二人ともレイカに向かって怒鳴ってしまった。
しかし、レイカは全く気にせずに「何もしてないからよ」といつもの無表情で言う。
『……え、何で?』
彼とタツヤは同時に首を傾げた。

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