《MUMEI》

そう言うとやはりアキラは堰を切ったようにポロポロと泣き始めてしまい、私の腕から降りたくるみが心配そうにアキラの側に駆け寄っていっていた。

「どうしたの…アキラしゃんイタイイタイなの?」
「…ゴメンね…くるみちゃん…うぅん大丈夫だよ」

くるみの髪を撫でながらも、動揺からかその指が震えている。

これは…アキラは何かを勘違いしている、どうにかこの誤解を解かなければ…。

「どういう関係とか言ったな…トリスタンはただの幼なじみだぞ」
「そんな…こ…恋人だったんでしょう…」
「恋人!?……どういう事だトリスタン」

それを聞いたトリスタンは、私に向かってまるで子供のようにイタズラっぽく笑っていた。


トリスタンは代々続く調度品を扱っている一家の息子で、ウチも贔屓にしている事もあって幼い頃から顔を合わせていた。

俺は日本で生まれて七歳くらいの頃にドイツへ来てそこから環境がガラッと変ってしまって戸惑っていた俺に、同じ年ぐらいのトリスタンを友人として紹介された所からの仲だった。

トリスタンは言葉を教えてくれたり、身の回りの分からない事をなんかを色々と面倒を見てくれていたのだ。

その頃ちょうど生まれた双子があまりにも可愛らしくて子育てに目覚めた俺はその双子の面倒をトリスタンと一緒に見たりしていていると、両親は『まるで小さい夫婦だね〜』と面白がっていた。

というだけの関係だった、という事をアキラに説明した。


「だから違うぞアキラ、こいつと一切そんな関係は無い!」
「いいんです…別に…克哉さんに恋人が居ても…僕は……」
「だから、コイツと一緒に居たのは子供の頃で、だから恋人なんて関係は有り得ないだろ…」

その私の声に驚いたのか、くるみがまん丸な目で俺をのぞき込むと、トリスタンを指さしてこう聞いてきた。

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