《MUMEI》
理由
「あそこに連れていかれる人間には共通点が一つある」
「共通点?」
レイカは頷いた。
「あそこにいる全員、仕事をしてない」
「え……。けどスーツ着てた人間もいたぜ?サラリーマンみたいな」
彼は確かにスーツの男に襲われたのだ。
「それはきっとリストラされた人でしょ。それに将来性がない人間もあそこに連れていかれる」
「いや待てよ。俺はちゃんと将来も考えつつ、バイトしてたぜ?」
「おお、俺もだ」
タツヤも彼と一緒に大きく頷いた。
しかし、レイカは否定するように首を振った。
「きっと将来に繋がらないって判断されたんでしょ」
「勝手に判断するなよ!」
「あたしに言わないでよ」
怒鳴るタツヤをレイカは静かに一喝した。
「なんのためにそんなことをしてんだ?こんなの無茶苦茶だろ」
「今のこの国は借金まみれなの知ってる?」
彼は頷くが、タツヤは首を振る。

タツヤには全くそういうことの知識がないようだった。
しかし、レイカはタツヤを無視して話を進める。
「国はそれを打開するために、働かない国民を排除することにしたらしい。そのためにあの施設を日本各地に作った」
「あれって、あそこだけじゃないのか。けど、殺したら借金が失くなるわけじゃないだろ。
だいたい、俺たちが作った借金じゃない。おかしいだろ」
彼はどうにも納得できない。
レイカはそんな彼を一瞥して話を続ける。
「ナイフの箱に入ってた紙、覚えてる?」
「ああ、一等を勝ち取れってやつだろ?」
「そう。一等を勝ち取る。つまり、あの中で一人生き残った者は奴らの組織に拾われる」
「仲間になるってことか?」
タツヤが眉間にシワを寄せたまま聞くと、レイカは頷いた。
「その中からさらに使える人間を絞って、この国はある商売をしようとしてる」
「なんだよ?」
「国家規模の暗殺業」
「はあ?なんだよそれ。映画じゃあるまいし。馬鹿じゃねえ?」
呆れた表情を浮かべて彼は言った。
「あー、でもそれで借金は減ってくかもな。国相手の商売なら依頼料もかなりの額だろ」
ようやく話を理解してきたタツヤが参加してきた。
「そう。今はその暗殺者を育ててる段階。あの施設でね」
レイカは頷きながら言った。
「あそこで人を殺しまくって、人殺しに馴れさせる。そうすれば、お荷物な人間は死んで、優秀な人殺しが育つ。一石二鳥だな」
 タツヤは納得したように頷いた。そして、二人は気付いた。
「……ひょっとしてレイカも?」
「あそこで?」
彼の言葉にタツヤが続く。
「そう。あそこで一人、生き残った。その後、うまくあの男に取り入って全てを聞き出した」
「それで、納得してるのか?あいつらは、俺達を生きる価値のない人間だと勝手に決めてんだぞ?」
「だから、こうしてチャンスを待ってる」
レイカは、まっすぐに二人を見た。力強い表情だ。
「チャンス?」
「国の借金、原因はほとんどが政治家達。せっせと裏金作って、私腹を肥やしてる。
あたし達はただ、とばっちりを受けただけ。
 あたし達とあいつら、どっちが死んだ方が世の中のためになると思う?」
レイカの目には鋭い光が宿っている。
「お前…」
タツヤの言葉を遮って、彼女は二人に何かを手渡した。
新品のナイフだった。
今まで持っていた物より軽く、刃が長い。
「……これは?」
「もっといい差し入れを持って来たかったけど、ポケットに入るサイズがそれぐらいしかなかった。それ、投げナイフとしても使えるよ。
明日のテストがどういうのか知らないけど、よかったら使って。
いまさらだけど、あたしは二人に会えてよかったと思ってる。
騙してて、悪かったよ」
 そう言い残すとレイカは静かに立ち上がり、出て行ってしまった。
「……なあ、あいつは」
彼はタツヤを見た。
タツヤは「ああ、そうだな」と頷きながら、レイカが消えたドアをずっと見つめていた。

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