《MUMEI》
彼とタツヤの想い
冷えたスープを喉に流し込みながら、彼は考えていた。

明日のテスト、いったいどんなことをさせられるのだろう?
死ぬのは嫌だ。
死にたくないからあそこから出て来たのだ。
しかし、奴らの仲間になって、罪のない人を殺すのも嫌だ。
一体どうすれば……

隣では、タツヤも同じように悩んでいるようだ。
しきりに、レイカがくれたナイフを眺めている。
「……こっから逃げ出しても、何も解決しないんだろうな」
タツヤが呟いた。
「…そうだな」
何の考えもなく、あそこを飛び出した。
これで助かったと思ったのに。
……確かに生き延びる可能性はでてきた。
しかし、前のような普通な暮らしに戻れる可能性はゼロだ。
勝っても負けても、もう自由が戻ることはない。
 レイカはそういう状況で、自分の命を選んだ。
きっと無駄死にするぐらいなら、何かをしてやろうと思ったにちがいない。
短い期間だが、ずっと一緒にいたからわかる。
彼女の意志は人一倍強い。
自分が正しいと思ったことは貫き通す。そのためにどんなことをしようとも…

 おそらく彼女がしようとしていることに、彼も賛成だ。
しかし、果たして彼に同じ真似ができるだろうか。

どちらかといえば、彼は今までほとんど何もしてこなかった。
 たまたま、あそこでタツヤに出会い、タツヤとレイカの作戦に便乗してあそこから脱出した。
その後も、二人の後をついて来ただけだ。
自分の意志などどこにもない。
今までもずっとそうだった。
(俺はどうしたらいい?)
彼は答えの見えない質問を繰り返していた。

一方、隣でタツヤはチビチビとスープを飲みながら、やはり悩んでいた。
 レイカが奴らの仲間だったことがまだ信じられないでいる。
さっきだって普通に会話ができたじゃないか。
彼女の様子は前とちっとも変わらない。

 出会った頃はなんて可愛いげのない女だと思った。
男のような言葉使いに振る舞い。
おまけに、情け容赦なく、向かって来る奴を切り捨てた。
 自分も人のことを言えた義理ではないが、一体どんな人生を歩んだらこんな冷徹な人間になれるのだろうと思ったものだ。
しかし、今なら分かる気がする。

彼女は自分の目的のため、自分を殺していたのだ。

人を殺して平気な人間はいないはずだ。
それでも感情を殺して平気だと思い込む。
そして、忠実に奴らの命令に従う。

それもこれも全ては彼女の目的のため。
そう、復讐という目的だ。
レイカの過去に何があったのか知らないが、彼女の口ぶりから何をしようとしているのか予想はつく。
 それはきっと、かなりの長期戦だ。
そこまでする覚悟が彼女にはある。

 自分はどうだろう?

そんなことをする根性があるだろうか?
今までの人生で何一つ長続きしたことがない。
 飽きっぽく、根性もなく、流されるままに生きてきた。

誰がどうなろうが知ったことじゃない。
自分さえよければそれでいい。
それがタツヤが自覚している自分だ。
しかし、明日以降はそんな自分というものが通用しそうにない。

奴らの仲間になるか、死ぬか。

どちらを選ぶ?

(どっちもやだな。すべてはテストの内容次第だな)

味気ない食事をしながら、二人の心の中では様々な想いが交錯していたのだった。

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