《MUMEI》
テスト開始
エレベーターは静かな音を立てて、下へと降りていく。
今日はあの最上階の部屋ではないようだ。
もともと彼らがいた部屋が何階だったのかは知らないが、やたらと長い間エレベーターは降りていく。
しばらくして、ようやくエレベーターは停まった。

扉が開くと、彼らがいた階とあまり変わらない様子が広がっている。
真っ直ぐに伸びた狭い通路にドアが並んでいる。
ただ違うのは、ドア同士の間隔がやけに広いことぐらいだ。
彼とタツヤは一番手前の部屋に通された。

中には雨宮が一人用のソファに座りその横に高島とレイカが立っていた。
「おはようございまーす。昨日はよく眠れたかな?」
朝からハイテンションな高島が、二人の顔を覗き込む。
「んなわけねえだろ」
「あら?それはいけませんねぇ。昨日が最期の夜だったのかもしれないのにー」
「勝手に決めんな」
「勝手にじゃないですよー。じ・じ・つ、じゃないですか?ねえ?」
高島は隣に立っているレイカに向けて同意を求めたが、レイカは冷ややかな目で高島を見ると、すぐに視線を逸らした。
「高島、少し黙れ」
雨宮は機嫌悪そうに表情を歪めた。
「はーい」
少しふてくされた様子で高島は口を閉じる。

「さて、今日のテストの内容だが……」
雨宮は不機嫌な声のまま、少し早口で言う。
「ここの隣の部屋に、死刑囚が五十人いる。そいつらを全員殺せば合格、殺されれば不合格だ。
シンプルだろう?ちなみに、囚人たちはお前ら二人を殺せば減刑だと言ってあるからそのつもりで」
彼とタツヤは顔を見合わせた。

殺し合いという意味ではあそこと変わりないが、五十人が彼とタツヤだけを標的に襲ってくるのはかなりきつい。
おまけに相手は死刑囚だという。
この国で死刑になるなど、かなりの凶悪犯罪者であることは間違いない。
「ちなみに、囚人たちに武器はない。君達には最初に渡したナイフがあるはずだ。あれを使ってもらって構わない」
雨宮にはレイカからナイフを貰ったことは、ばれていないようだ。
「制限時間は?」
硬い表情でタツヤが聞く。
雨宮は首を振った。
「特にない。しかし、早く相手を全滅させることができれば、その後の対応が優遇される。
逆に時間がかかり過ぎた場合は、組織の待遇もどんどん悪くなる」
雨宮は腕時計に目をやった。
「あの…」
「質問は受け付けない。連れていけ」
雨宮の声に、男たちが二人を部屋から出す。
その間、レイカはずっと何もない空間を静かに見つめていた。

二人は隣の部屋に押し込まれ、男たちはすぐにそこから出て行った。
ドアを施錠する音が聞こえる。

その部屋はなんとも妙な構造をしていた。

隣の部屋とは違い、やけに天井が高く、およそ二階分はあるようだ。その二階部分は屋内バルコニーのようなものが設置されている。
よく見ると椅子がいくつか置いてあるようだ。
「あれってなんだろうな?」
 タツヤもバルコニーを見ながら不思議そうにしている。
「さあ。なんにしても逃げ場にはならないな。高すぎる。
それよりどうするよ?囚人五十人だってよ」
「一般人殺すよりはマシだけどな」
「気持ち的にはマシだけど、相手としてはまだ一般人のが楽だ」
「あー、なんかどっちに転んでもダサい感じなんだよな。カッコイイ切り抜け方ってないもんかな?」
タツヤがそう言った時、二人の位置から反対側のドアが開いた。
そこからゾロゾロとお揃いの服を着た男たちが入ってくる。
「……いよいよか」
タツヤが心なしか興奮気味に言った。
「そうだな」と返事をしながら何気なく彼はバルコニーを見た。
さっきまで誰もいなかったはずの椅子に誰かが座っている。それも数人。
「なあ……」
タツヤに伝えようとした時、部屋に雄叫びが響いた。
「ボーッとすんな!来るぞ!」
見ると、五十人の囚人たちが一斉に押し寄せて来ていた。

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