《MUMEI》
見覚えのある男
囚人たちは二人を取り囲むかとおもいきや、てんでんばらばらに殴り掛かってきた。
まるで統率がとれていない。
まあ、軍隊ではないのだから当然だろう。

「俺はこっちやるから、お前はあっちを頼む。できるだけ離れるな」
タツヤが目の前の一人を蹴り飛ばしながら怒鳴った。
彼は頷きながら、向かって来る一人をやり過ごす。
そして彼は、レイカに貰った方じゃないナイフを手に持ち、すばしっこく相手を翻弄しながら攻撃していった。

意外と囚人たちの動きはとろい。
しかし、やたらと体力があり、体格のいい奴から繰り出されるパンチは強烈だ。
そういう奴には下手な攻撃は効かない。
相手の腕や足を切り刺ししたところで筋肉が邪魔して深い傷にはならないのだ。

これはタツヤの蹴りにしても同じようで、苦戦している。
「くそ!この筋肉野郎が!」
タツヤは無理に急所を狙おうと、姿勢を低くした。
しかし、その相手は一瞬タツヤが体勢を崩した瞬間、タツヤの頭を目掛けて組んだ両手を振り降ろした。
ドガッと鈍い音がしてタツヤはそのまま俯せに倒れた。
「タツヤ!!」

彼はタツヤにとどめをさそうとしている囚人に全身の体重をかけて体当たりをした。
そして相手がよろけたときを狙って首を切り裂いた。
噴水のように血が飛び出し、囚人は倒れる。
「おい!大丈夫か?」
彼は群がってくる囚人たちをなんとか蹴散らしながら呼び掛ける。

タツヤは殴られたところを片手で押さえながら立ち上がった。
「……いってーな!!この野郎が!!!」
突然そう叫ぶと、猛烈な勢いで手当たり次第に蹴りを入れていく。

足払い、回し蹴りに跳び蹴り、うっかりこけた相手には踵落としをお見舞いしている。
次々と倒れていく囚人達。
タツヤは倒れた相手に、とどめとばかりにジャンプしてその体に思い切り体重をかけて着地した。
「タフだな、あいつ。」
呆れながら、その近くで彼も応戦する。

そんな状況がしばらく続くと、さすがに二人とも疲れが見え始めた。

しかし、残った囚人たちは何故かますます勢いを増してきたような気がする。
「おい、まだいけるか?」
息を切らしながら彼は聞いた。背中合わせに立ちながら、タツヤは頷く。
「ったりまえだ」
しかし、タツヤの息も荒い。
「しかしなんなんだよ、あの上の奴ら。ニヤニヤしやがって」
タツヤがバルコニーに座る人物を睨む。
「気付いてたか」
「ああ。感じ悪ぃな。この様子見て笑うなんて頭おかしいんじゃねえか?っよ!!」
ドサっと一人吹っ飛んだ。
「あれって、アレだよ。っと危ね!」
「アレじゃわかんねえだろ。なんだよ?知ってる奴なのか?っの野郎!!」
彼は頷いた。

あそこに座っている男。
少なくとも一人、彼は見たことがあった。

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