《MUMEI》
第三の選択
「誰なんだよ?」
「政治家」
「政治家?あれ全部か?」
「わかんねえけど、あの右端の奴は間違いない。最近、なんかの疑惑で騒がれた奴だ」
「……そういや他の連中も見たことがあるような、ないような。ああ、もう、うぜえな」
 会話の間も、囚人たちの攻撃の手は緩まない。

二人も必死に応戦するが、だんだんと体が重くなってくるのがわかった。
「つまり、あいつらは俺達が殺し合うのを見物してるわけだ?」
タツヤは椅子に座る男たちを睨み付けた。
「悪趣味だな……あ、レイカもいる」
よく見ると、椅子の両端には政治家たちの警備だろう、サングラスの男が銃を持って立っている。
さらにその隣に、静かに佇むレイカの姿がある。
眉一つ動かさず、まっすぐにタツヤと彼を見守っている感じだ。
「あいつは一人でこの国を壊す気でいるんだよな」
「だな。俺さ、あいつを手伝ってやろうって思ったんだけど、なんか無理っぽい感じ?」
タツヤが顔を歪めている。
彼も殴られた腹がひどく痛む。
肋骨が折れているかもしれない。

確実に体力を奪われていく二人に比べて、囚人たちに疲れは見えない。
ドーピングでもしてるんじゃないかと思わせるタフさだ。
「………一つ、レイカの手伝いができる方法を思いついたんだけど。第三の選択だな」
「マジで?それってカッコイイ選択?」
「まあ、どうかな?他の二つよりはマシだと思うけど」
二人は徐々に周りを囲まれていく。

「どんなんだよ?」
彼はタツヤに小声で教えてやった。
「なるほど」
バルコニーに目をやり、少し考え込むタツヤ。
「スポーツ万能なんだろ?」
「ああ、お前こそヘマすんなよ。平凡ピッチャー」
二人はニヤっと笑うと、場所を移動した。
「オラ、どけ!!」
タツヤの後に続いて、彼も走る。
「ここらでいいか?」
タツヤが振り向く。彼は頷いた。

すると、タツヤは大きく息を吸い込んで叫んだ。
「レイカ!!しっかり見てろよ!これが、俺達がお前にしてやれる精一杯のことだ」
続けて彼も言う。
「お前は、しっかり自分の意志を貫き通せ!!いいか、負けんじゃねえぞ!!」

レイカの表情が変わった。

二人は同時に頷いてレイカから貰ったナイフを取り出し、走り出す。

タツヤと彼は囚人たちの隙間を風のように走り抜け、同時に踏み切った。

二人は大きくジャンプし、一番高く上がったところでナイフを力一杯投げ付けた。

投げたナイフはまっすぐに政治家たちの方へ飛んでいく。
それと同時に、部屋に銃声が鳴り響く。

ナイフは勢いを衰えさせることなく、右端とその隣に座っていた政治家の顔に突き刺さった。

それを確認した瞬間、タツヤと彼の体に衝撃が走った。
二人の体がビクっと痙攣する。
二人は落ちていきながら、笑い合った。
タツヤも彼も満足気な笑顔だ。

彼は顔をレイカの方に向けてみた。
レイカはひどく泣きそうな顔をしている。
初めて見る表情だ。
(あいつもあんな顔するんだな。普通の女の子みたいだ)

遠のく意識の中でそう思いながら、彼はレイカに笑いかけた。
レイカが何か言っている。
しかし、声が聞こえない。
(なんだ?なんて言ってんだ?)
なんとか聞き取ろうとしてみたがやはり聞こえない。

そのまま、彼の意識は途絶えていった。

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