《MUMEI》
終
ドサっという音と共に、二人の体は床に叩きつけられた。
その体から血が流れ出る。
レイカは叫んでいた。
とにかく声を上げた。
バルコニーの上では、階下に向けて警備たちが執拗に銃を撃っている。
しばらくして銃撃が止むと、階下に動く者は誰ひとりいなかった。
鉄臭い血の匂いと火薬の匂いが入り交じって気持ちが悪い。
「早く救急車を呼べ!」
バタバタと騒がしい。
どう考えてもその二人はもう死んでる。
レイカは冷めた目でその様子を眺めた。
顔にナイフを刺したまま、二人の政治家はだらしなく手足を投げだして動かない。
彼とタツヤの遺体は他の囚人たちと一緒に回収されていく。
そのまま、適当な理由を作り上げて事故死として処理されるのだろう。
世間もそれで納得するのだ。
レイカは部屋から立ち去った。
「本当に予想外なことばかりする奴らだったな」
翌日、呼び出された部屋で、雨宮が面白そうに笑って言った。
「邪魔な奴を殺して逝ってくれるとは、なかなか使える奴らだった。次もああいう奴を見つけてきなさい」
雨宮は上機嫌だ。
「お前は本当に働き者だな。お前の案である『宝くじ』も上手く機能している。ほかの馬鹿な政治家どもには考えつかなかっただろう。
私が首相になる日も近い。そうだろう?」
レイカは無言で頷いた。
(あんたは、一番最後に殺してやるよ)
レイカの目には暗い光が宿っている。
「では、次の仕事に行きなさい。役立たずには死を、だ」
雨宮の指示に、レイカは頷き、その場を離れた。
タツヤと彼と行動を共にしたのは、雨宮の指示に従っただけだ。
使えそうな奴は殺さずに様子を探れという指示に。
しかし、徐々にレイカは自分の意志で一緒に行動するようになった。
あんなに楽しく過ごせたのは本当に久しぶりだった。
おそらくもう二度とそんな時間は来ないだろう。
彼らなら、自分の気持ちを理解し、共に戦ってくれるかもしれない。
そう思った。
しかし、雨宮がテストをすると言った時、それは無理だと悟った。
テストとは建前、実際はなぶり殺しにされるだけだ。政治家たちの楽しみのネタにされながら。
せめて何か力になれないかと、二人にナイフを渡した。
彼らはそのナイフで最期の最後に、レイカのために戦ってくれたのだ。
腐った政治家を消去してくれた。
今日の朝刊に、死んだ二人の政治家のことが書かれていた。
『不運な事故で死去』
雨宮が手を回したんだろう。
きっとこれから不運な事故で死ぬ政治家が増えることだろう。
レイカの家族は、身に覚えのない借金を背負い、父もリストラされ、一家心中した。彼女が七歳の時のこと。
そして彼女だけ生き残った。
レイカはこの国の実状を知った時、こんな国は壊すべきだと心に決めた。
自分の家族ではなく政治家達こそ死ぬべきだと。
彼らの命を受け継いだ今、さらにその意志は固くなった。
そのために、今はひたすら罪のない人を殺している。
レイカは繁華街を一人歩いた。
後ろから聞き覚えのある声が聞こえる。
「ちょっとこれ見ろよ〜。宝くじ〜が三枚〜」
「どうしたんっすか?これ」
「拾った。タツヤさんたち消えちまったし?三億もらい損ねたし?ついてなかったけどよ〜。これで三億当たっちまったりしてな〜」
「いっすね〜。リュウジさん、ちょっと番号見に行きましょうよ」
「お〜、行くか〜?」
声の主は耳障りな笑い声を響かせながら去って行った。
その先に何が待っているのかも知らずに。
レイカは無表情に歩き続けた。
「あたしが、この国を壊す」
彼女の目から一筋の涙が零れていた。
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