《MUMEI》
大ピンチ!
夏実は叫んでみた。
「出てきなさい!」
倉庫の中は暗い。昼だからまだ自然光で辺りは見えるが、夜は真っ暗だろう。
「ここに逃げ込んだのは見たんだから!」
棚だらけの倉庫。棚の上には重そうな金型などが乗っている。
パワーリフトが2台。バンドリフトも何台かある。
夏実は慎重に歩を進めた。
「動くな」
後ろから声。
「動いたら撃つ」
夏実は硬直した。
「心臓が動いた。さようなら」
「待ってください!」
悲痛な叫び。巨漢はほくそ笑んだ。あまり気は強くなさそうだ。
「ゆっくりとこっちを向け」
夏実は汗びっしょりだ。
「動いていいんですか?」
「いい」
夏実は恐る恐る巨漢のほうを向いた。拳銃。どう見てもオモチャだ。
しかしモデルガンでも殺傷力はある。大怪我するような弾を入れていたら大変だ。
「手を上げろ」
夏実は言われた通り両手を上げた。
「空手とかできんの?」
「いえ」
「じゃあ、銃を持ってるんだ?」
「持ってません」
「空手はできない。銃は持ってない。なら何で追いかけて来たの?」
「それは…」
「俺が大人しく逮捕されると思ったの?」
夏実は足がすくんだ。自分で情けないと思いながらも、怖くて仕方なかった。
「名前は?」
夏実が黙っていると、巨漢は銃を向けた。
「言います、撃たないで」
「あれれ?」
巨漢は夏実に近づいた。
「貴様それでも刑事か?」
「刑事じゃありません」
「じゃあ、何?」
「婦人警官です」
「一緒じゃん」
「違います」
巨漢は真顔で頷いた。
「まあいい。本当に銃を持っていないか身体検査をする。全部脱ぎな」
「え?」
夏実は蒼白。本気で怯えた。
「裸は困るか。じゃあ、俺がボディチェックしてる間に逆らわないと誓うか?」
「誓います」即答した。
巨漢はボディチェックを始めた。体のあちこちをまさぐる。夏実は唇を強く結んだ。
「逆らったら全裸で身体検査だぞ」
それだけは避けたい。本当にやりかねない雰囲気を持った男。かなり危ない。
胸をもまれる。夏実が両目を閉じた。
「あう…」
ボディブロー。夏実は、わけがわからなくなってしまった。
気を失った夏実を肩に軽々抱え上げると、巨漢は大きな貨物用エレベーターに乗った。
夏実、大ピンチだ。

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