《MUMEI》
御神の地
足止めをくった宿場町を出て5日、ニーナは帰郷した。

御神の地。

山あいに城がある。
遠くからでも城と呼ばれるミカミの屋敷と、それを中心に裾広がる町が見えた。商業が盛んなこの町は、陽の出ている間中大勢の人が行き交っている。


まっすぐ屋敷へ行く気が起きず、ニーナは甘味屋へ入った。
ひょいと町人が寄ってくる。

「若様、寄り道ですか」
頼蔵である。

町に入ってからふと姿を消していたが、どこから調達したのかこの土地の恰好をしていた。

「頼蔵、甘味は好きか」
「まぁそこそこ」
「オレは世に甘味がなくなったら生きる気が失せる。ここのはうまいぞ」


「まぁ若様!」
奥から女将が出てきた。
前掛けで手を拭きながら腰を折り、
「お帰りなさいませ」

「久しぶりだな」
「本当に。ちょっと見ない内に凛々しくなられましたわ」
「そうかな」
「その様子ですと、まだお屋敷には行かれてませんわね。あまりのんびりしているとお迎えが来てしまいますよ」
「ほんとに」
頼蔵が相槌を打った。

「あら。餡蜜でよろしいですか?ふたつお持ちしますわ」


「子ども扱いなんだ」
女将が引っ込んでから、ニーナがぼそっと呟いた。

「そのようですね」
「みんなさ。オレは今年21だ」
「なぜでしょうかね。5年も旅したというより、ちょっとした散歩の帰りみたいな反応ですね」
「商業で栄えてるくせに、外の国を知る者は少ない。そこがここの変わったところで…」

「ニーナ!」

突然、ニーナの背中に飛び付くものがあった。勢いで前のめりになり、慌てて頼蔵が支える。
小花の散る華やかな着物に、さらさらと流れるような髪。

「姉上!」
自分に背後から飛び付いてくる者などひとりしか知らない。
ニーナの実の姉、シノノである。

「門をくぐったと聞いたから、ここだと思って迎えに来たのよ。逞しくなったわね。肩幅こんなになかったもの。男らしくなったわ」
「姉上はお変わりなく」
「もらい手がないところも変わってないわよ」

巻き付いた腕をほどくと、
「ほら、早くお屋敷へ行きましょ」
腕を掴まれる。
こうなったら引かないことを、ニーナは小さい頃からの経験でげっそりするほどわかっていた。

「頼蔵、餡蜜はやる!」
残念だが仕方ない。

頼蔵が呆気にとられているうちにニーナは屋敷へと連れていかれた。

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