《MUMEI》
花あそび・雪あそび
 「花植える土が欲しいだぁ?」
翌日、美佐子を帰路に見送って一息ついたすぐ後
すぐに出掛けたらしく、田畑・ファファの姿は田畑の友人・高見 オサムが営む喫茶店にあった
「……珍しいことするもんだな、田畑。一体何植える気だ?」
あからさまに怪訝そうな顔をしながら、高見が田畑の前にコーヒーの入ったカップを置く
その質問には答える事はせずコーヒーを一口
返事がない事には刺して気にする事はせず、不意に高見が肩を揺らした
「しかし、本当に一体どういう風の吹きまわしだ?花植えようだなんて」
「……一昨日、遊園地行ったら、開園十周年の記念とかで苗貰ってな。それでだ」
「遊園地だぁ!?」
「何だよ?」
「お前、まさかとは思うが一人でそこ行ったのか?いい歳した親父が一人遊園地はねぇだろ」
「そんな訳あるか」
はっきりと否定して返す田畑に、何故か高見の顔がにやけていく
「だろうな。お前が一人でそんな所行く訳ねぇし。それに」
途中、わざわざ言葉を区切ると、高見の視線はファファの方へ
軽く肩を揺らしながら
「かわいい恋人じゃねぇか」
と揶揄う様に言って向ける
突然のソレに田畑は飲んでいたコーヒーを僅かに吹き出していた
「こ、恋人って高見。お前な……」
「いい年して赤くなるな。土なら裏に置いてある。好きなだけ持ってけ」
背を押され、田畑は裏口から外へ
店内に残ったファファは、きちんと椅子に腰かけ田畑の作業が終わるのを待つ
暫くすると、空になったカップに紅茶が注がれ、ソレに添えられるように茶菓子が出された
「もう少し時間が掛ると思うので、これでも食べて待っててください」
ファファが退屈しない様配慮してくれるのは
金髪・碧眼の可愛らしいウェイトレス
「ありがとうございます」
その好意に、ファファはわざわざ椅子から降り頭を下げる
相手もその事に対しまた頭を下げ
二人は互いに頭を下げ続けた
「……そんなに頭下げてると血ィのぼるぞ、お前ら」
その一部始終を眺めていた高見が笑う声を喉の奥に含ませながら声を掛けて
頭を下げる事をその瞬間に止めた二人は互いに顔を見合し、頬を朱に染めていた
高見は益々笑いながら、徐にテーブルの上へと箱を置いた
一体何なのかと、ファファが高見の方を見やる
「あの、これ……」
「ウチのケーキだ。よかったら持って帰ってアイツと食いな」
浮かべた笑みはそのままに、高見はファファの頭の上で軽く手を弾ませた
ファファは暫く箱を眺め、それから香ってくる甘い菓子のそれに箱を開いてみれば
可愛らしく飾りつけられた小さなタルト
ファファの顔に、満面の笑みが現れる
「美味しそうです」
「余りもんで悪いけど、どーぞ」
「ありがとうございます〜」
戴いたそれが余程嬉しかったのか、箱を抱えたまま放そうとはせずに
用を終え、田畑がその場に戻ってくるまでの間中、箱を手放そうとしないファファ
その様に高見が微かに笑う声を漏らす
「何笑ってんだ?高見」
お持ち帰り用の土の支度を漸く終えた高見が店内へ
珍しく笑う顔を見せる高見へ訝し気な顔をしてみせた
返答はなく、唯笑うばかりの高見に、田畑は益々訝しむばかりだ
「何でもねぇから気にすんな、禿げるぞ。それより、何か食っていくか?今日だけなら特別に奢るぞ」
「珍し。一体どういう風の吹きまわしだ?」
「別に。唯何となくだ。で、どうする?」
高見にしては珍しい申し出
断るには惜しい誘いで
刺して考える事もせず、田畑はありがたく奢られる事にした
時間的にも昼食に近く、ちょうどいい頃合だ
「お譲ちゃん、何か食いたいものあるか?大抵のものなら作ってやれるぞ」
何がいい?とファファへと向いて直り片目を閉じて向ける高見
ファファは悩む事を始め、そしてホットケーキが食べたいと告げる
「了解。田畑、お前もそれでいいな」
踵を返し高見はキッチンへ
田畑の返答など最初から聞く気が無かったらしく、手際よく二人分のソレを作り上げていた
フルーツとチョコレートソースのかかったソレが前に置かれ
甘いチョコレートの香りが辺りに広がる
「有り合わせで申し訳ないけど、どーぞ」
召し上がれ、とホットケーキに見入ったままのファファへフォークが差し出される

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