《MUMEI》
《永遠》の終焉
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「それ以来、祥子の家とは絶縁状態になった。当然といえば当然だよな。こんな男と結婚させなければ、アイツは今も元気にいられたかもしれないのに…」

僕はあえて軽い調子で話した。折原は黙って聞いていた。僕はため息をつき、続けた。

「俺達には、《永遠》なんかなかった。エタニティも、ただの気休めだった。それにいち早く気づいた祥子は、この関係を早く終わらせたかったんだ。アイツは『解放して』と呟いていた。でも、俺が頷かなかった。祥子を失うのが怖かった。だから、祥子は…」

折原は首を振った。僕は俯く。

「早く、アイツを手放していれば良かったんだ。《運命》とか《永遠》とか、つまらない言葉にすがるべきじゃなかった。俺が、最終的に祥子を殺したんだ」

折原は何も言わなかった。僕は顔を手で覆う。

いつの間にか、夜が訪れていた。







それから数日後。
僕は仕事を休んで、ひとり海へ出かけた。

海開き前と、平日の昼頃ともあって、海に数名のサーファーがいる以外は、ひとはまばらだった。
波と戯れる彼らは本当に楽しそうで、僕と同じ世界に住んでいるとは思えない程、遠い存在に思えた。時折、彼らの笑い声が聞こえたが、それすら幻のように思える。


あの告白の日以来、折原は僕によそよそしくなった。僕の心の闇を垣間見て、怖くなったのだろう。目が合っても、気まずそうな顔をして逸らすようになった。もちろん、僕の部屋にもやって来なくなった。

すっかり態度が変わった折原を見て、僕は内心、ホッとしていた。

あのまま関係を続けていたら、次の被害者は、折原になるところだった。彼女まで追い詰めてしまったら、僕は今度こそ壊れてしまう。


いや。
もう、壊れているのかもしれない…。


僕は浜辺に座り、打ち寄せる波を見つめた。押しては返す、永遠の運動。
虚しい気持ちが、胸の中に沸き起こった。


僕は空っぽだった。


祥子を失い、赤ちゃんを失い、折原を失い、リエや祥子の両親、そして紀子の信頼を失って、僕にはもう何も残っていなかった。

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