《MUMEI》








中庭のベンチに座り、煙草に火をつける。




「はあ〜……、うまい……」




病室で隠れて吸うのとはやっぱり違う。



外の空気を思いきり肺に吹いこみながらの煙草は気分的にも違う。





裕斗が忘れていったロングコートから裕斗の匂いがする。





首元のファーがあったかくて、まるで裕斗に暖められているみたいで。




わざと首を竦めて温もりに身を寄せる。




俺が着ると袖が余るし胴回りも余裕があって…、もう少し成長したかったなぁとしみじみ思った。





やっぱり170センチ欲しかった。







仁は血が繋がらないから別にして兄貴は俺よりも少しだけ高い。




煙草の煙を見つめながら、やっぱりこいつのせいか?





…と思いつつ、二本目に火をつけた。











煙草とライターをコートのポケットに突っ込む。




「………」





指先に触れたものをポケットから出すと単行本程の大きさのノートが出てきた。




ポケットにまた手を突っ込む。





「でっかいポケットだな…こりゃーバッグいらねーや…」



普段使いにこのコート使いよさ気。




あーそういや裕斗、これ着てた時はあんまりバッグ持ってなかった。




「これねだって貰っちゃおーかな…フフッ」




何気なくノートを開く。




「相変わらず書いてんなー…」





一ページに一行分の文章。





良く聞いたら高校時代、絵手紙クラブだったらしい。




第一希望を美術にして第二がどうしても考えつかなくて適当に丸をつけたのが絵手紙クラブ。



美術クラブは校則違反の漫画を持ち込めるという理由で人気があって入れず、絵手紙クラブにされ、辺りを見渡すと裕斗と地味で太った下級生の二人だけだったとか。






それでも描いているうちに楽しくなって授業中でも教科書の端に文章書いたり、今でも考えついたフレーズを残している。





一度裕斗の残した文章を繋げて俺がメロディーつけて曲を仕上げた事がある。





何となくそれを録音して平山さんに聞かせたら、凄く気にいってくれたんだ。






一ページ、一ページめくる。





やっぱり裕斗は才能がある。




なんか一行の中に心に響くものがある。




面倒くさがりやなくせに綺麗な字。




見た目が外人だから字だけは厳しく母親に指導されたらしい。




全部目を通し終え…





俺はなぜか心に引っ掛かりを覚え、また始めからページを開いた。










「………裕斗…」









……−そうか……







今の裕斗の気持ちが







全てこの中に詰まっている……。

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