《MUMEI》 拷問の序曲どれくらい眠っていたのか。夏実はゆっくり目を覚ました。 「ん?」 自分が下着姿なのに気づき、驚いて顔を上げた。 「きゃあ、やあ!」 目の前に屈強な男たちが数人いる。恥ずかしさと恐怖で暴れた。しかし鉄棒のようなものにバンザイの形で両手を拘束されているから、胸を手で隠すこともできない。 両足もダンベルに繋がれているから、僅かしか動かせなかった。 「ちょっと、ほどいて、変態、ケダモノ、ろくでなし!」 純白の下着はかなりセクシーで、夏実は顔が真っ赤だ。 「早くほどいて!」 どんなに叫んでもだれも動かない。中央を見ると、小柄な男が姿を現した。 実際は小柄ではない。ほかの男たちが巨漢なのだ。 ギョロ目と表現していいかはわからないが、目に特徴があった。夏実は、ボスだと思い、噛みついた。 「婦人警官にこんなことしてただで済むと思ってるの!」 男は笑みを浮かべると切り返した。 「一般市民よりも、婦人警官のほうが罪が重いのか?」 「いや、そういうわけでは…」 夏実が引く。男は近くまで寄った。 「竹内だ。君の名前は?」 「まずほどいてください」 「君の名前は?」 無抵抗ではヘタに逆らうことはできない。 「星巻」 「ほしまき。下は?」 「…夏実」 「夏に美しいか?」 「夏に実るで、夏実」 「そっちか。年齢は?」 「レディに年を聞くの?」 「年齢は?」 「脅しているつもり?」夏実が睨んだ。 「年齢を聞いているんだ。答えなさい」 悔しいけどあまり刺激しないほうがいい。夏実は素直に従うしかなかった。 「22」 「22か。夏実。最初にルールを説明しよう。しおらしくしていれば、ひどいことはしない。しかし、生意気な態度を取ったら、泣くまでいじめるぞ」 夏実は怯んだ。 「夏実。俺は紳士だ。安心しろ」 「女を男の人が見てる前で下着姿にして、紳士と言えますか?」 「下着は恥ずかしいか?」 「下着姿を恥ずかしいと思わないほうがおかしいですよ」 夏実の強気に、竹内は笑った。 「荒瀬」 「はい」 「水着を持って来い」 太った男がどこからか水着を持って来た。怪しい地下室そのままの拷問部屋。夏実は気持ちで負けまいとしていた。 「荒瀬。彼女は下着姿が恥ずかしいらしい。水着に着替えさせてやれ」 夏実は目を丸くした。荒瀬が赤いビキニを持って近づいて来る。 「あ、ちょっと、ちょっと待ってください、ちょっと待って!」 竹内が手を上げると、下着に手をかけた荒瀬の動きが止まった。 「何だ夏実?」 「あ、あの。下着のままでいいです」 「そうか」 (悔しい!) 裸にはされたくない。それに、全裸だと犯されるという恐怖がある。夏実はしおらしくした。 「安心しろ夏実。俺は性的拷問は邪道だと思っている」 「今あたしを裸にしようとしたでしょ。それが性的拷問じゃなかったら、何が性的拷問なんですか?」 「知りたいか?」 「え?」 「何が性的拷問か知りたいか?」 夏実は俯いた。 「知りたくありません」 「ハハハ。面白いヤツだな。気に入ったぞ」 夏実は身じろぎした。竹内は何者か。何をするつもりなのか。 「夏実。今から質問することに正直に答えれば、ほどいてやる」 夏実は真顔で竹内の顔を見た。 「もしもとぼけたりしたら、体に聞くことになるぞ」 夏実はドキッとした。体に聞くなどと言われたら、怖いに決まっている。 「夏実。どうしてあの店で、取引があることを知っていたんだ?」 夏実は最初、質問の意味すらわからなかった。 「あ、それは勘違いですよ。偶然あの店に行ったんです」 「偶然か。信じたいがそうもいかない。もう一度聞く。なぜ警察は取引の場所と時間を掴んでいた?」 「だから偶然です」 「とぼけるなら体に聞くことになるぞ」 「嘘は言ってません!」 「竜」 あの髪の薄い巨漢の名前は竜というらしい。竜は夏実の真後ろに立った。 「え、何?」 前へ |次へ |
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