《MUMEI》
愛は会社を救う(87)
穏やかだった丸亀の顔が、一転、厳しい表情に変わる。
「私は、山下クンに…昇進して欲しかったんだ!」
会社では冴えないグループリーダーが、初めて顕わにした熱い本音だった。
「もう15年近く前になります。当時の経営陣は改革派でね。経済情勢は悪化していましたが、会社は活気に溢れていました。そんな社風の中、まだ20代だった彼女を総務係長に抜擢しようという話があったんです」
「係長というのは、今のグループリーダーですね」
「ええ」
しっかりと視線をこちらに向け、丸亀が力強く頷きながら言葉を返す。
「追い抜かれる立場の私も、本当に嬉しかった。山下クンは地元採用ですが、群を抜いて有能な社員でね。当時はまだ、昇進して会社のために働く意欲に燃えていました」
(そんな時代があったのか…)
経歴書には収まりきれない過去が、人にはあるものだ。

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