《MUMEI》
愛は会社を救う(89)
「あれはクーデターでした」
丸亀が、地を這うような声を発する。
「あれは、創業家から経営権を剥奪するためのクーデターだった。今の支店長と副支店長も、彼らの一派だ」
薄暗くなった公園内には、和風の行灯を模った照明が、柔らかな光を灯し始めていた。その光の中で、数匹の小さなコウモリが舞っている。
「もともと経営センスの無い役人だった奴らは、くだらない統計を出させたり、意味も無い通達を頻発したりして、業務効率を著しく低下させた」
「だから、彼らを貶めるために書類を隠蔽したんですね」
「そうだ!」
立ち上がった丸亀をライトが照らし出す。
そのシルエットはまるで、独り芝居を演じる俳優のようだった。
「そして私は成功したんだ。だってそうでしょう?支店は営業所に格下げになる。奴らは無能のレッテルを貼られ、次は必ず左遷される。そうすれば、山下クンだって…」
「つまらない復讐はもう、止めにしませんか」
私はベンチに座ったまま、男を制止した。
「止めにしませんか、兼松さん」

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