《MUMEI》
強気
沙知のケータイに電話がかかってきた。
「もしもし」
無言、と思ったら、聞き覚えのない男の声。
『泉沙知か?』
「あなたは?」
『夏実を預かっている』
「今すぐ解放しなさい!」
『命令か?』
「そうよ。解放しないなら機動隊が踏み込むわよ」
竹内は笑った。
『沙知。一人で来れるか?』
「夏実を出しなさい」
『夏実は無事だ。乙女の純情も守られている』
「夏実を出さないと信じない」
すると、ガサゴソと音が聞こえた。
『先輩』
「夏実!」
『すいません』
「何謝ってるの。とにかく、その人には逆らわないで。必ず助けてあげるから、それまでおとなしくしてて」
『はい』
竹内に変わった。
『沙知』
「呼び捨てにしないで」
『沙知。一人で来れるか?』
「ええ」
『ではこれから合い言葉と場所を教える』
竹内は細かく沙知に説明した。
『いいか。ほかの刑事の陰がちらついたら、夏実は全裸にするぞ』
「やめなさいよ、そういうことは」
『おまえ次第だ』
電話は切られた。沙知は急いでタクシーを呼んだ。
タクシーで目的地へ。降りると、沙知は道路脇に止まっている黒い乗用車に歩み寄る。
助手席のドアを叩いた。助手席にすわっていた2メートル近いスキンヘッドは、ギロリと睨んだ。
「この変にうまくて安いラーメン屋さんはある?」
合い言葉は合っている。スキンヘッドは、運転席のサングラスをかけた男と顔を見合わせると、沙知に言った。
「後ろに乗れ」
沙知は素早く後部座席に乗り込んだ。竜がいた。
「お久しぶり」
笑う竜。沙知は睨んだ。すぐにスキンヘッドが後ろに来て、沙知を挟み撃ちにする。
竜がアイマスクを出した。
「しろ」スキンヘッドが怖い顔で言う。
沙知は受け取ると、笑った。
「いきなりボディブローはやめてね。死んだら困るから」
「レディにそんな乱暴なことはしませんよ」竜が笑顔で言う。
「鞄でレディの顔を殴ったのはどこのだれ?」
「あれは…忘れてくれ」
親しい会話のやりとりに、スキンヘッドが怒った。
「早くアイマスクをしろ。俺は警察が大嫌いなんだ。舐めた態度取ってんじゃねえぞ」
凄まれた。沙知は怖がるのがしゃくなので、アイマスクをスキンヘッドにかけようとした。
「うぐぐ…」
ところが、竜が両手を掴む。と同時にハンカチを口に当てられた。沙知は暴れた。
「うぐぐ…ぐぐ」
気を失ったら何をされるかわからない。沙知は必死にもがいた。だが、巨漢二人に両側から襲われては勝ち目はない。彼女は気を失ってしまった。
「行くぞ」
車は静かに走り去った。

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