《MUMEI》

逃げる人

蠢く生物


階段を駆け上がる。
「誰か!」
叫びは廊下を反響しただけ。


顎がぶつかる
体が壁に付く。
「ちくしょう!」
両手をたたき付ける。
行き止まりに追い詰められた。

自棄になり、向かっていく。



「まだ、まだ足りないキョン」
キョンは新しい装いの服に合わせた傘をくるくるまわして、幾重にも重なったスカートのフリルを一つまみしている。さながら、どこかの国の上流貴族を思わせた。





「ヒィィあ……ぎぃぃっ」
キョンが立つ足元では、人とは判別不能な音が壁から壁に振動していた。


ぴくぴく痙攣を起こし、耳から何かが侵入している。

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