《MUMEI》
愛は会社を救う(90)
丸亀の顔が凍りつく。
「あなた…どうして、それを」
私はゆっくりと立ち上がり、丸亀の正面へと歩み寄った。
「ご本名は兼松羊市郎。傍系だが、あなたは間違いなく丸兼物産創業者・兼松亀治郎の玄孫(やしゃご)でいらっしゃる」
丸亀は、口を開けたまま立ち尽くしている。
「同族経営のこの会社では、兼松という姓は特別の意味を持つ。あなたが偽名を使って勤務されているのはそのためでしょう。おそらくは入社した時から、旧経営陣の判断で」
「戸籍を、調べたんですか…」
搾り出すような声で問い返す丸亀を無視し、私は言葉を続けた。
「あなたは人一倍、会社を愛していらっしゃった。それは、丸亀という今の姓にも表われています」
その丸亀が、呆然と私を見遣る。
「カの発音が濁らないマルカメ。これは、亀治郎氏が創業した当時、ほんの短い期間使用していた屋号に由来している」

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