《MUMEI》
愛は会社を救う(91)
「いくら会社を愛していたって、創業者の子孫だって、ヒラ社員の私にできることなど何も無かった」
無力感に打ちのめされたかのように肩を落とし、震える拳を握り締めて丸亀が呟いた。
「せめて、支店を潰して転勤族を追い出し、昔のように山下クンに活躍してもらう。それだけでも成し遂げたかったんです」
感情の昂ぶりからか、次第に語気が強まっていく。
「だが彼女は、あの一件以来すっかり荒んでしまっていた。私は何とかして、彼女を中心に職場がまとまっていけるよう手を尽くしました。そのためなら私は、あらゆる手段を使って、それを…」
そこまで言った丸亀が、自らの言葉にハッとして私の顔を見る。
何かを訊ねようとするその男を目で牽制した後、私は僅かに首を横に振り、それ以上言葉を続けないよう黙って促した。
――それが"契約"だからだ。

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