《MUMEI》
凶器の指
沙知は「ハッ」として目を覚ました。鉄棒のようなものに両手を拘束されている。
(しまった!)
両足もダンベルに繋がれている。全くの無抵抗な状態に、沙知は不安な顔色を浮かべた。
ただ服は脱がされていない。Tシャツとジーパンはそのままだ。衣服も乱れていない。
靴は脱がされていて裸足だが、手枷足枷の内側には柔らかいクッションがあり、手足を傷つけたり、跡が残らないようにしている。これが優しさかどうかは判断が難しい。
無人の部屋。いかにも拷問をするのに相応しい地下室という感じだ。
パソコンや機材などもある。ベッドもある。ベッドにも手足を縛るためのベルトが付いている。
沙知は身の危険を感じた。やはり一人で来たのは無謀だったか。
ほかにはトイレとシャワールームらしきものが見える。
「ふう」
沙知は深呼吸をした。監禁されるのは生まれて初めてだし、警察官になって、これだけ危険な目に遭うのも初めてだ。
しかし諦めてはいけない。夏実も自分も、必ず無傷で帰るのだ。
沙知は自分自身に気合いを入れた。
ドアが開く。白いバスローブを着た夏実が入って来た。
「先輩!」
「夏実」
後から竹内や竜、荒瀬やスキンヘッド、それにサングラスと続々入って来た。
(……5人)
夏実が泣き顔で沙知を見ると、振り向いて竹内を睨んだ。
「話が違う。ほどきなさい!」
「どけ」竹内が笑う。
「どかない」
夏実が両手を広げた。沙知は夏実に言った。
「どいて夏実」
「先輩」
「この人はそんな悪い人じゃない。大丈夫だから」
「でも」
「もしも本当の悪党なら、あなたは注射を打たれてるわ。そんな酷いことはされてないでしょ?」
夏実がやや下がると、竹内が沙知の前に立った。
「願望を言ってるのか?」
「別に」
「俺は悪党だぞ」
沙知は緊張のあまり黙った。
「服を着たままなのも、脱がす楽しみを味わうためだ」
「話が違う!」夏実が怒鳴った。
「泉沙知。なかなかイイ女じゃないか。モテるだろ?」
沙知は真顔で竹内を見ていた。
「いくつだ?」
「23」
「若いな。スリムでセクシーなボディ。俺好みだ。男はいるのか?」
沙知は答えない。すると、竜が真後ろに立った。
「あっ」
夏実は顔色を失った。沙知もくすぐりが苦手なのだ。
「やめなさいよ!」
「夏実。お願いだから黙ってて」
沙知に言われ、夏実は控えた。
「沙知。最初に言っておくが、しおらしくしていれば、紳士的に扱おう。しかし生意気な態度を取るなら、泣かすぞ」
「泣かす?」
「いい度胸してるな」
「まさか」
竹内はさらに近づく。
「沙知。なぜ取引場所と時間を警察は知っていた?」
「あの店には偶然行っただけよ」
「そんなに拷問されたいか?」
沙知は身構えた。
「本当よ。偶然あの店…あっ」
竜が背後から両脇をくすぐる。沙知はたちまち立っていられなくなった。
「くううう…ちょっと、あ、ちょっと…」
竹内も驚いた。
「おい。口ほどにもないどころから、夏実よりもくすぐりが苦手らしいな?」
沙知は真っ赤な顔をして歯を食いしばる。
「ううう、くううう…」
「笑い転げたほうが楽だぞ」
「やめろ…」
「命令は嫌いだ」
竹内も前から脇をくすぐる。竜は腰をくすぐる。沙知は耐えられなかった。
「きゃははは、やははははは、やめて、ちょっと…」
夏実は竹内に体当たり。
「やめて!」
竹内が倒れそうになった。すかさず竜が夏実を押し倒して、くすぐり地獄だ。
「ぎゃあああ、やははははは」
笑顔で暴れる夏実を見て、沙知は叫んだ。
「やめて、やめてください!」
「竜」
竜はやめたが夏実は汗だくで半失神。竜の手指はもはや凶器だ。
「沙知。後輩思いの先輩に先輩思いの後輩。これでは俺が大悪党のように映るな」
「そんなこと…」
「竜。夏実を連れてけ」
「何する気!」
「沙知。自分の心配をしろ」
「夏実はやめてお願いだから」

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫